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価格転嫁7つの心得と15のテクニック講座 第6回【最終回】

2025/06/23 11:00

みなさんこんにちは。中小企業診断士の初鹿野浩明(はつかの ひろあき)と申します。今回で第6回、最終回となります。
最終回では、価格転嫁の残り5つの手法について話します。

価格転嫁15のテクニック(後編)

第4回第5回でご紹介した10手法はどちらかといえば B to C(Business to Customer:企業対一般消費者)に近い考え方でした。後編では、B to B(Business to Business:企業対企業)に寄り添った考え方を説明します。

【価格転嫁 テクニック その11】 お手てつないで法

この方法は、関連する仕入商品の価格が上がった際、それに合わせて自社も値上げを行う手法です。
デフレ経済の時代は、材料費の高騰が事前に分かれば、多めに仕入れておき、価格が落ち着くのを待ってから値上げを検討する、という考え方が主流でした。一時的に材料費が高騰しても、その後に価格が下がる可能性があったからです。
しかし、インフレ経済では状況が異なります。材料費だけでなく、あらゆるコストが上昇し、しかもその上昇が継続する傾向にあります。半年後の仕入れ価格がどうなるか予測しにくく、一度下がったとしても再び値上がりする可能性が高いのです。
このようなインフレ下では、「みんなが値上げしている時こそが値上げのチャンス」です。このタイミングを逃してしまうと、後から自社だけが値上げに踏み切った際に、顧客は「なぜ今頃?」と不信感を抱く可能性があります。

周囲の動きに合わせて柔軟に価格を見直すことで、スムーズな価格転嫁が可能になります。

【価格転嫁 テクニック その12】便乗法

過去、デフレ経済の中でも、日本の消費者物価指数が大きく上昇したのは5回あります。そのうち4回は消費税が上がった時でした。もう1回はリーマン景気の時です。
これらはいわゆる「便乗値上げ」と呼ばれていますが、景気が上向いたり、増税があったりすると、それに合わせて平均的に物価が上昇する傾向が見られます。この時期を、自社の値上げの機会と捉える事業者もいます。

つまり、社会全体で大きな変化があった時に乗じて、自社も価格を見直すという考え方です。

【価格転嫁 テクニック その13】組合せ法

今までの「テクニックその1~12」の方法を組合わせて値上げを遂行するという手法です。次のような例が見受けられます。

●内装をリニューアルして、値上げをしておいて1ヶ月間値引きをする。ただし、割引期間の値引き価格は旧価格と同じ。⑦一時サービス法+⑧陳腐化・リニューアル法
●小麦の値段が上がるたびに、小麦の価格上昇の割合に合わせてその都度上げていく。④段階法+⑪おててつないで法

【価格転嫁 テクニック その14】価格交渉

原価を示して、価格を上げるように交渉する手法です。企業間(BtoB)の価格交渉、特に親事業者と下請けの関係では、事前準備、価格交渉の実施、議事録・契約書などの文書化の3ステップが重要です。

1.事前準備

交渉前には、以下の点をしっかり準備しましょう。

価格転嫁の根拠資料:原材料費や人件費など、コスト上昇を示す客観的なデータを準備します。企業努力の内容や、価格変更ができない場合の供給への影響も提示できるようにしておくと良いでしょう。

親事業者との関係性・自社の強みの確認:自社への依存度や、競合他社と比較した自社の技術力、品質、納期対応力などの優位性を把握しておくことで、交渉を有利に進められます。

交渉価格の設定:提示価格(理想)、目標価格(納得できる)、最低価格(これ以上譲歩できない)の3つの価格を設定し、価格以外の代替案(例:支払い条件変更)も検討しておきましょう。

2.価格交渉の実施

準備ができたら、以下の点に注意して交渉を行います。

交渉要請:まず「価格改定検討のお願い」のような文書で、値上げの背景を簡潔に伝えます。事前に担当者へ打診することも効果的です。

客観的データ提示と代替案:交渉当日は、経営トップも交え、準備した客観的なデータを提示し、設定した価格や、価格以外の代替案(例:加工方法の変更)を提案しながら交渉を進めます。

3.議事録・契約書などの文書化

交渉で合意した内容は、トラブル防止のため必ず文書化します。

議事録・契約書の作成:合意した内容を議事録として記録し、最終的な取引条件は「見積書」や「契約書(覚書)」として明確に文書化し、双方で確認・同意します。

この3つのステップを踏むことで、円滑かつ効果的な価格交渉を目指せます。
一般的には、改めて見積書を提出する多いようです。視点を変えて、過去の経費価格と現在の経費価格を比較して交渉するという手法もあります。参考までに比較法による交渉用のテンプレートを添付します。

【価格転嫁 テクニック その15】法的な調停

下請けかけこみ寺、弁護士になどによる調停裁判という手法もあります。交渉が難しかった場合の最終手段だと思ってください。
企業対企業の交渉と同様ですが、第三者が存在するという点で異なります。必ずしも円満解決なるとは限りません。
参考までに国の支援先の連絡先を掲載しておきます。

下請けかけこみ寺
相談先 0120-418-618
①全国の中小企業から寄せられた企業間取引に関する様々な相談などに対して相談員が無料で親身になって対応するとともに、必要に応じて弁護士の無料相談も行っています。
②紛争の早期解決に向けて裁判外紛争解決手続(ADR)を無料で実施しています。
③各都道府県に拠点がある。
 
中小企業庁 下請Gメン(取引課「取引調査班」)
相談先 03-3501-1669
「ヒアリング希望」と伝えること

最後に
これで、価格転嫁に関する「7つの心得と15のテクニック」は終わりです。
初回で説明した通り、2000年から2024年の間に最低賃金は1.6倍に増えました。商品やサービスを提供する上で「人の手」は不可欠ですから、当然、商品・サービスの価格も1.6倍になるべきだと考えられます(個人的には安い方がいいのですが)。
皆さんも、ご自身の所得や給料がこの20年間で1.5倍以上になっているか、という視点を持ってみてください。価格を上げなければ、自分たちの所得や給料が上がらないというのは明らかな事実です。
今回のお話が、皆様のお役に立てたなら幸いです。

【本記事は連載の第6回です。これまでの回もあわせてご覧ください】
第5回「価格転嫁15のテクニック(中編)」
第4回「価格転嫁15のテクニック(前編)」
第3回「価格転嫁7つの心得(後編)」
第2回「価格転嫁7つの心得(前編)」
第1回「物価高の現状」

【著者紹介】
初鹿野 浩明(はつかの ひろあき)
株式会社経営科学研究所 代表取締役
中小企業診断士