

価格転嫁7つの心得と15のテクニック講座 第5回
みなさんこんにちは。中小企業診断士の初鹿野浩明(はつかの ひろあき)と申します。今回で第5回目になります。
第4回では、価格転嫁15のテクニックの前編として5つのパターンをご紹介しました。
今回の第5回では、別な視点でのテクニックをご紹介します。
価格転嫁15のテクニック(中編)
第4回では、値上げというよりも、内容量を増やしたり、減らしたりして、財務分析の観点からの値上げとか、長い時間をかけて値段を上げていくというものでした。
今回は主に、即効性が高く、消費者に錯覚や需要を喚起させることで実質的な値上げの手法を心理的に和らげる手法を中心に提案しています。
【価格転嫁 テクニック その6】 一時休止法
一度商品陳列から外して、しばらくしてから値上げしたものを並べるという手法です。商品アイテム数が比較的多い業種・業態の場合に有効です。個別の原価率が悪化した商品を販売棚(商品群)から一度外します(休ませる)。3ヶ月くらい経ってから、新商品として値上げして販売します。
このタイミングで、価格を改定する(値段をあげる)のですが、同時にパッケージデザインを変えるとより効果的です。
小売りの商店でも使えますが、レストランのような場合でも使えます。メニューから一度外しておいて、数か月たってから再度メニューに載せ直すというやり方でも可能です。

【価格転嫁 テクニック その7】一時サービス法
値上げをした時に、一時的に値引きをしたり、「おまけ」を提供したり、量を増やしたりするという手法です。1ヶ月程度の猶予を決めて、値上げをしたのではなく、値引きや「おまけ」をなくしたとします。
例えば、1個250円の商品を300円に値上げをした場合、1カ月の間、4個で1,000円として、従来1,200円のところを200円割引という割引セールを行うと手法です。お客様は、今までの料金の物を割り引いて買えるという錯覚を起こさせ、1ヶ月後には、セールが終わったとして、値上げをしたという感覚を払拭させます。
スーパーで見かけるのは、値上げをしたと同時にポイントを値上げした分だけ余計に付加させておき、数か月たってからそのポイントを減らすというテクニックです。10円の値上げをしたとは言わずに、「10ポイント増し」のPOPをつけるという例です。また、レストランや食堂でも値上げと同時に増量サービスをしておいて、徐々に元に戻すということをみかけます。
いずれにせよ、量やポイントを元に戻すタイミングに一工夫ひつようであると考えています。1ヶ月程度は様子を見てから元に戻すタイミングを図ってください。

【価格転嫁 テクニック その8】陳腐化・リニューアル法
今までの商品を陳腐化して、見た目を変えることで新しい商品として(リニューアルして)販売してしまおうという考え方です。1970年代、80年代には、よく使われていたテクニックでした。当時の自動車メーカーは2年毎にモデルチェンジをしていたことをご存じの方もおられるかと思います。
デザイン性を高くしたり、時代の変化に合わせてパッケージの外観を変えたり、お店の内装・外装を変えたりしたその時に、価格を上げてしまうという手法です。 デメリットとしては、それなりに費用がかかると欠点があります。ただし、「小規模事業者持続化補助金」という補助金制度の中で最も申請しやすい(採択されやすい)取組の一つです。補助金などを使わなくてもパッケージを変えたり、内外装を変えたりしたときは、値上げをするチャンスだと考えておいてください。

【価格転嫁 テクニック その9】追い付加価値法
新しいサービスを導入した時に、全体の価格を上げる取組です。
例えば、高価格のハンバーガーセットを目玉商品として期間限定で販売したとします。お客様の視点をそちらのハンバーガーセットに目を向けておいて、同時に関係ない他の商品もさりげなく上げるという手法です。
また、テーマパークなどが新しいアトラクションを追加した時などに同時に入場料全体を値上げすること等がこれにあたります。新しいアトラクションができたときは、そのパークのファンであれば行きたくなるのは当然の結果であると思います。

【価格転嫁 テクニック その10】分離法
今までは、一つのサービスの中で完結していたが、価格の高いサービスと安いサービスが混じっていたいた場合に使う手法です。
例えば、プレミアムチケットというのは、一定料金を多く払えば、並ばないで済みます。また、花火大会を見物するのに、無料の人もいますが、お金を払うことで良い席が確保できます。サービスの内容は同じですが、サービスの中核を外したサービスが異なります。
別の視点では、トレーニングジムや生け花教室などでは、プロ講師になりたい人と自分が趣味として楽しみたい人など、目的の違う方がいます。このような場合、プログラムを目的毎に分けて、個人レッスンにするとか、集団レッスンにするとか、または、講師専門のプログラムを作成するとかといったことを行って、価格設定を変えることをします。
この方法は、商品・サービスの管理や異なるプログラムを作るといったことで、業務が複雑になるというデメリットがあります。ただし、お客様の納得度や選択の自由度が高まります。

高い金額を払うことで並ばないでも利用できる
次回は、後編の最終回となります。価格転嫁15のテクニックの前編および、今回の中編の10手法は、どちらかといえば、B to C(Business to Customer:企業対一般消費者)に近い考え方です。後編、残り5つのテクニックでは、B to B(Business to Business:企業対企業)に寄り添った考え方を説明する予定です。
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【本記事は連載の第5回です。これまでの回もあわせてご覧ください】
■第4回「価格転嫁15のテクニック(中編)」
■第3回「価格転嫁7つの心得(後編)」
■第2回「価格転嫁7つの心得(前編)」
■第1回「物価高の現状」
株式会社経営科学研究所 代表取締役
中小企業診断士