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総合格闘技から、清掃の世界へ。

2022/06/27 10:00

清掃人。 第二十八回

波田野嶺央(28歳) 株式会社サンワックス

2022.6.27 10:00 更新

撮影=立木義浩 文=内野一郎
撮影場所=赤羽体育館(東京都北区)

自らを「神の子」と名乗る

総合格闘技選手がいた。
山本“KID”徳郁、その人である。
2000年代初頭、
格闘技ブームに沸く日本の
間違いなく大スターの一人であり、
打撃技、組技、寝技のすべてで構成される
総合格闘技の世界で
鍛え抜かれた身体を武器に
凄まじい勝ちっぷりを誇った。
華があり、多くの人に愛された。
波田野さんは18歳から
その山本氏の門下で総合格闘技に打ち込み、
運転手なども務めながら
格闘技の技を磨き、試合を続けていった。
週5日の定期清掃アルバイトを始めたのも
その頃からだ。
「格闘技選手を続けながら
清掃のアルバイトをしている人たちは
意外に多いのです」
と、波田野さんは穏やかに答える。
「生活の大半の時間を
トレーニングに打ち込んでいるため、
一般的な会社員の方たちのようには
充分な時間を仕事に充てられません。
その点、清掃のアルバイトは
時間調整ができますし、とても有難い」
27歳の時、波田野さんは、
試合で受けたパンチが原因で網膜剥離になり、
ドクターストップが宣告された。
選手生命を終えることになり、
毎日悩んだそうだ。
一時はパーソナルトレーナーの職に就いたが、
仕事としては不安定だった。
そんな時に長くアルバイトをしていた
サンワックスの社員募集を知り、
これまでの経験も生かすことができると決断。
ビルメンテナンスの世界に進むことを選んだ。
「何より喜んでくれたのは、
一人親の母です。
とても安心してくれました」
波田野さんの人生の選択。
空の上からかつての師匠も
きっと笑顔で讃えてくれているに違いない。

立木義浩(たつき・よしひろ)/1937年、徳島県・徳島市の写真館に生まれる。1965年『カメラ毎日』で掲載された『舌出し天使』が話題となり、一躍世間の注目を集める。女性写真の分野を中心に、多く著名人を撮影。 同時に世界中でスナップ写真を日常的に撮り続け、多くの作品を世に送り出す。主な受賞歴に、日本写真批評家協会新人賞(1965年)、日本写真協会賞年度賞(1997年)、 日本写真協会賞作家賞(2010年)、文化庁長官表彰(2014年)など。