

夢と挑戦の病院清掃~障がいを乗り越え、未来を創る職場~
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ホスピタル・メンテナンス株式会社
代表取締役社長:髙橋 政則 氏、従業員:山本 弘、代田 彗

―――御社は京都で医療施設に特化した清掃を手がけておられると伺いました。医療施設専門に絞ってこられた理由と、御社ならではの強みを教えてください。
髙橋 当社は新型コロナウイルスの流行よりもはるか以前から、感染症対策の最前線に立ってきました。現場の衛生品質を預かる当社として、特に重大な局面となったのが、当社が清掃を受託していた病院において、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)による院内感染が発生したときのことです。当初は感染経路すら不明で、原因の特定には困難を極めましたが、私たちは地道に仮説を立てては検証を繰り返し、最終的には感染源を突き止め、適切な対応を講じることに成功しました。この経験は、単なる清掃業務を超えた「医療現場のパートナー」としての責任を強く意識させるものでした。
このMDRA対応で培った高度な衛生管理技術と感染症への知見は、のちに新型コロナウイルスの拡大期において、大きな力となりました。実際に、当社の感染症対応力が評価され、京都府から病院や療養施設における清掃業務の要請を受けたことは、社会的信頼の証だと受け止めています。
私たちが、コロナ禍において京都で真っ先に感染症リスクの高い現場に対応できたのは、まさに過去の困難な経験と、そこから積み上げてきた専門性の成果です。現在も当社は「医療機関専門のビルメンテナンス会社」として、医療施設の衛生を支える体制を強化し続けています。医療の現場を支える存在としての責任を果たしつつ、今後もより一層の品質向上に取り組んでまいりたいと考えています。
山本 新型コロナウイルスの感染が急拡大し、社会全体が未知の恐怖と混乱に包まれていた当初、社長は清掃事業者として誰よりも早く、自ら最前線である病室の現場に立ちました。現場にはまだ感染対策のマニュアルも整っていない中で、自ら感染症リスクと向き合いながら、先頭に立って現場の安全確保と衛生管理体制の構築にあたった姿は、今も強く印象に残っています。
その後も、京都府や病院からの依頼はすべて受け、「医療現場を止めない」という強い信念のもと、私たちは専門特化の清掃会社として、感染拡大を抑えるためにあらゆる現場で全力を尽くしてきました。当社の取り組みは、地元紙でも大きく取り上げられ、社会からも高く評価をいただきました。
人手も不足し、日々が緊張の連続でしたが、スタッフ全員が誇りを持って力を合わせ、困難な局面を一つひとつ乗り越えてきました。あの経験が、今の当社の原動力になっています。
髙橋 もちろん、私たちは病院以外の清掃にも対応できます。しかし、これまでに経験してきた院内感染や新型コロナウイルス対応といった現場の連続は、私たちに「清掃が命を守る行為であること」を強く自覚させました。そして、そうした経験を通じて、「医療現場の衛生を担う専門会社として社会に貢献する」ことが、当社の使命であり進むべき道であると、確信を持つようになりました。現在では、その専門性と使命を明確に打ち出すために、ホームページの内容も刷新し、医療機関に特化したサービス体制を積極的に発信しています。
病院の中でも、手術室の清掃は、医療現場の中でも最も高い精度と責任が求められる領域のひとつです。決して“そこそこ”で済まされるものではありません。だからこそ、私たちはそこに誇りを持って取り組んでいます。
病院という現場は、常に命と向き合う場所です。その環境を清潔に保つ責任の重さが、私たちの仕事に、何よりの意義とやりがいを与えてくれています。

▲京都府からの感謝状を手に、左から山本さん、代田さん、髙橋社長
―――手術室の清掃は特に専門性が高いと思いますが、ロボットも取り入れてらっしゃるんですか?
髙橋 手術室のように、極めて高度な衛生環境が求められる現場では、単なる清掃作業ではなく、状況に応じた最適な判断や繊細な配慮が欠かせません。そのため、当社では手術室清掃には専任のスタッフを配置し、医療現場に特化した体制を整えています。
もちろんロボットや機械にも一定の役割はありますし、将来的に技術が進歩すれば、私たちの清掃品質をさらに高める手段として活用できる可能性もあると考えています。私たちもそうした技術には常にアンテナを張っています。
ただし、現時点においては、手術室に設置された特殊な設備や精密機器への対応、現場ごとのわずかな変化への即応などにおいては、人の目と手による確かな判断と対応が最も信頼できると考えています。
また、誰が対応しても同じ水準の品質が確保されるよう、独自のマニュアルと運用体制を整備し、徹底した教育訓練を行っています。
とはいえ、それは「誰にでもできる仕事」という意味ではありません。高い専門性と責任感をもって取り組むべき、非常に繊細で重要な業務だと考えています。
これからも医療の発展や現場ニーズの変化にしっかりと向き合いながら、当社自身の基準や体制も常に高めていきたいと考えています。
―――シニア世代や障がい者も安心して働ける職場づくりを進められていると伺いました。そういった取り組みをされるきっかけや背景を教えてください。
山本 当社では、先代の時代からシニア世代や障がいのある方の雇用に取り組んできました。病院内では、清掃だけでなく、食器の洗浄などの業務も依頼されることがあり、それらの仕事は一人ひとりの特性に応じて取り組める内容でもあります。
「この仕事なら、あの人にもできるかもしれない」——そんな気づきや発想から、自然な形で受け入れを始めたのが最初だったと思います。それを今の私たちがしっかりと受け継ぎ、継続しているという形です。
―――シニア世代や障がい者の方は現在、どんなところでご活躍されていますか?
髙橋 主に病院内の一般清掃の現場で活躍してもらっています。今回インタビューに同席している代田君も、障がいを持っていますが、それをまったく感じさせないほど真面目で熱意ある姿勢で日々の業務に取り組んでくれています。
京都協会さんとのご縁から入社してくれたのですが、そのご縁に本当に感謝しています。そして今では、「たとえ障がいがあっても社長を目指してほしい」と思うほど、代田君には大きな可能性を感じています。私は、常々彼には“ヒーロー”になってほしいと思っています。
―――代田さんはアビリンピックで金賞を受賞された経験があると伺いました。その時の経験が活かされていると感じる学びなどがありましたら教えてください。
代田 もちろん、全国一位を目指して自分自身で努力したことも大きな学びでしたが、それだけではありません。競技を通じて、他の人に自分の作業を見てもらい、うまくいかなかった部分を見直して改善するという姿勢が身につきました。そうした日々の積み重ねや目標に向かう姿勢が、今の仕事にも活かされていると感じます
髙橋 代田君は、高校生のときに全国アビリンピックのビルクリーニング種目で金賞を取った実績があったものの、当社へ入社前はビルメンとはまったく離れたクリーニング店に就職した時期もありました。それでも「やっぱりビルクリーニングをやりたい」という想いを持ち続けていてくれて、再びこの業界で頑張る決意をしてくれたことがとても嬉しかったですね。
代田 そうですね。高校を卒業してクリーニング店に就職しましたが、やっぱり「ビルクリーニングをやりたい」という気持ちが強くて。その時期がコロナ禍だったこともあり、家族に心配をかけてはいけないと、妻とも相談をしてよく話し合って、転職を決めました。
今は夢だったビルクリーニング技能検定1級にも合格し、目標に向かって成長しながら働けていることに大きなやりがいを感じています。本当は全国ビルクリーニング技能競技会で優勝するのが夢でしたが、今年から「ビルクリーニング サービスグランプリ」という新しい形に変わったので、今度はそちらにいつか出場したいと思っています!
―――代田さんのサービスグランプリ出場を楽しみにしています! 髙橋社長や山本さんから見て代田さんはどのような強みや魅力をお持ちの方だと感じておられますか?
髙橋 代田君は、自分のことだけでなく周囲をよく見て行動できる、広い視野を持った人です。現場全体が円滑に回るように、自分に今できることを考えて、すぐに動ける力があります。そうした姿勢が、チームの中でもとても信頼されています。
山本 本当に細かいところまで気を配ってくれる人です。たとえば、洗剤のストックを準備しておいてくれたり、在庫管理を自主的に段取りよくこなしてくれたり。入社当初は私が一つひとつ教えていたのですが、今では何でも任せられる頼もしい存在に成長してくれています。
代田 私は、清掃の仕事が本当に好きなんです。好きな仕事に携われているからこそ、「もっと覚えたい」「もっと上手くなりたい」と前向きに取り組むことができています。

▲夢や目標を語ってくれた代田さん
―――代田さんのこれから挑戦してみたい仕事や、目標があれば教えてください。
代田 清掃業の中で、まだ自分が経験していない分野にも挑戦してみたいと思っています。新しい資格の取得にも意欲があり、もっと勉強をして経験を積みながら、自分の可能性を広げていきたいです。
髙橋 私は10年後、代田君に社長になってもらいたいと本気で思っています。障がいがあっても、社長になれる。その姿を見せることで、多くの人に夢を与えられる存在になってほしいですね。
代田 社長や会社の皆さんが、僕の夢を心から応援してくださっていて、本当にこの会社に入ってよかったと感じています。幸いにも僕は障がいの程度が軽かったこともあり、いろいろなことにチャレンジする機会をいただいてきました。
アビリンピックでの経験や、技能検定の補佐員としての活動を活かして、母校の支援学校で講師を務めたこともあります。そうした活動を通じて、自分自身の夢を実現し、同じように障がいを持つ子どもたちにも「夢は叶う」という希望を届けることができたらうれしいです。
―――御社の今後の目標や、挑戦してみたいことはありますか?
髙橋 私たちはこれまで、病院清掃という専門分野を通じて、医療現場を衛生面から支え、多くの医療機関と信頼関係を築いてきました。地域医療を足元から支えることこそが、当社にとって何よりも大きな使命であり、今後もこの役割をさらに深めていきたいと考えています。
そのうえで、これまで培ってきた衛生管理の視点や、「人の暮らしを支える」という価値観を、より広い領域でも活かし、社会貢献の幅を広げていきたいという思いがあります。
たとえば、地域とのつながりを大切にしてきた京都の企業として、インバウンド需要が回復するなか、宿泊施設向けのベッドメイキング部門の立ち上げを検討しています。
また、地域イベントにキッチンカーを出店するという新たな挑戦も構想中です。これは清掃業務とは異なる分野ですが、これまで医療現場で支えてきた「健やかなくらし」や「安心できる日常」に、別の形で寄与できる喜びを実現する取り組みとして、大きな意義を感じています。
今日も従業員と「私たちにできる地域貢献とは何か?」をテーマに意見を交わしました。こうした取り組みはすべて、“人の命や暮らしに寄り添う企業でありたい”という当社の軸から生まれています。
会社として、そして私自身としても、いま最もワクワクしながら挑んでいるチャレンジの真っただ中にいます。これからも変化を前向きにとらえ、一つひとつのご縁と現場を大切にしながら、地域とともに歩み続ける企業でありたいと思っています。
Corporate Information
- ホスピタル・メンテナンス株式会社
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- 代表取締役 髙橋 政則 HP: https://www.hosmain.co.jp/