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好奇心が原動力――『新しい』を楽しむ社長がつくる前向きな会社

2025/11/10 10:00

―――入社のきっかけを教えてください。

青柳 高校を卒業して専門学校に通っていたのですが、当時は就職活動のことをまったく意識していませんでした。そんなとき、先代の社長である父から「うち(会社)に入ってみたらどうだ」と誘われたのがきっかけです。子どもの頃からいつかは会社を継ぐんだろうな、とは思っていたので、ごく自然な流れで入社することになりました。

20歳で入社してからは、ずっと現場一筋でした。あるとき、38歳のときに父から「来年から社長をやれ」と言われまして、翌年の39歳で社長に就任しました。

―――現場から社長に就任されたとき、どのような変化がありましたか?

青柳 就任当初は、経営のことなどまったく分からないところからのスタートでした。当時は会議といっても、せいぜいミーティング程度のものでした。

また、当時の従業員は休日も少なく、給与面でも決して良いとは言えませんでした。まずは「社員が安心して働ける会社にしたい」「ほかの中小企業に引けを取らない、働きやすい会社にしたい」という思いが強くありました。

ところが、社長に就任して最初の2年間は連続で赤字を出してしまったんです。

ちょうどそのころ、担当の税理士が高齢になり、退任されるということで、顧問をお願いできる新しい税理士を探していました。そんな時、ある勉強会で大阪の税理士さんに出会いました。その勉強会で教わった中で、特に印象に残っているのが「会社は毎月決算が必要」という言葉です。年に一度決算をして「どうだ!」というものではなく、毎月の数字を確認して修正しながら進めていくことが大事だと。さらに「経営計画書を作ることの重要性」も教わりました。社長が一人で作るものではなく、幹部の社員と一緒に作り上げることでこそ意味がある、という点にも強く共感しました。

ぜひ自社でも取り入れたいとすぐにその税理士さんに連絡を取り、顧問をお願いすることができました。さっそくその税理士さんが主催する勉強会に、部長クラスの社員を連れて参加しました。ほかにも3~4社ほど参加しており、月に1回の開催で、毎回発表もあります。最初はイヤイヤだった社員たちも2~3ヶ月も経つと少しずつ意識が変わり始め、半年ほどで「うちの形」が見えてきました。

その後は、月1回の経営会議にもその税理士さんに司会として入ってもらっています。各部門ごとに数字を出して分析することで、どの部門が利益を出していて、どこを改善すべきかが明確に見えるようになりました。

ありがたいことに、私よりも優秀な部長たちが多くいてくれるおかげで、課題があっても、やれば必ず成果につながる体制が整いました。

社長就任当初は赤字を出してしまいましたが、その積み重ねが実を結び、毎年少しずつ成長し今期も過去最高の売上と利益を達成することができました。

―――数字への強さが会社の強さになっていったんですね。赤字脱却後はどのようなことに力を入れてこられたのですか?

青柳 数字を元に会議を行うことで、各部門の課題が見えるようになりました。例えば「この部署は利益を出しているのに人が足りない。もう少し人員を確保できれば確実にもっと利益を上げられる。」とか。一方で「今の時期は人手に余裕がある。」といったことがすぐにわかります。部長たちは部門の垣根を越えて人員を調整してくれるようになり、組織としての柔軟性も高まりました。

私が社長になる以前は、官公庁の入札業務を中心に行っていましたが、安く買いたたかれて利益が出なかったり、入札が取れなかったときのリスクを抱えていたりと、課題が多かったんです。

そこで、どの金額なら利益を出せるのかを数字で明確にし、それを下回るような案件は無理に取りにいかない方針に変えました。結果として、着実に利益を出せる体制が整い、社員の給与や賞与をしっかり上げることができました。

▲先代から続く社是とともに『出来る 出来る 必ず出来る』

―――経営の安定化に加えて、新しい取り組みも積極的に進めていらっしゃるそうですね。

青柳 親父に似たのか、私は昔から新しいものが大好きなんです。

掃除道具ひとつでも「これは良さそうだ」と思ったら、すぐに試してみたくなるタイプで、現場を担当していた頃は、海外製の新しい洗剤を取り入れて試すのが楽しくて仕方ありませんでした。

その性格は、社長になった今も変わりません。清掃ロボットや最新技術の情報収集など、常にアンテナを張っています。

あるとき、取引先の工場から「グレーチング(床の金属格子)にこびりついた塗料を除去してほしい」と依頼を受けました。当初は多人数で電動ケレンである程度削り、200キロの水圧で洗浄していましたが、「もっと効率よく出来るのでは」と社員が提案してくれたんです。そこで2,500キロの超高洗浄機を試してみたところ、驚くほどきれいになり、ケレン作業が不要になって、少人数で対応できるようになりました。

お客さまにも大変喜んでいただけました。

この地域は工場が多く、安全を最優先にするお客さまが多いです。特にタンクの内部清掃は、通常は人が中に入って行う危険な作業で、酸欠などのリスクもあります。

しかし、この高圧洗浄機を使えば、人が入らずとも上から特殊ノズルを降ろして内部洗浄ができます。さらにアタッチメントを交換することで、アスベスト除去にも安全に対応することができるという事で、アスベスト専任のチームも立ち上げました。

もともと、産業廃棄物の収集運搬も行っていたため、これを機に大型のダンパー車を導入し、洗浄した物を吸引して中間処理所まで運搬する業務も増えました。安全性を高めた設備導入や、こうした提案力が評価され、工場からの信頼も厚くなり、依頼も多くいただけるようになりました。

大変な仕事でも、新しい発想で工夫することで楽しく取り組める。そういうところが、この仕事の面白さですね。

―――ここまでとても貴重なお話をおうかがいしてきましたが、名刺交換させていただいた際のマジック(手品)には本当にびっくりしました。手品はどういったきっかけで始められたんですか?

青柳 今でこそ兵庫協会や、警備業協会、ロータリークラブ、商工会議所、青年会議所など、いろいろな団体に所属して多くの方とお付き合いさせていただいていますが、もともとは人見知りであがり症だったんです。会議でも何も発言せず「特にありません」と言って終わるようなタイプで、いつも誰かの後ろに隠れるようにしていました。

そんな自分を見ていたのか父が、「兵庫協会の青年部へ行ってこい」とか、「こういう集まりに顔を出してみろ」と言ってくれて参加していました。

そんな中で、東京で会議があったときに秋葉原に立ち寄ったんです。当時の秋葉原には新しいものがいろいろ売っていて面白くて。買って人に見せてみたら、それをきっかけに人が集まって来たり、話しかけてもらえたりしてね。その中にたまたま手品のグッズもあったんです。

手品も簡単なものなんですけど、やってみたら反響がものすごくて。ただ、手品って一度見せたものは、二度目は飽きられてしまう。だから常に新しいものを取り入れるようになりましたし、見せるときにちょっとした気の利く説明やセンスがないと伝わらないこともあるため、工夫するようになったんです。

名刺交換のときも「胸が熱くなるんですよ」なんて言いながら手品をしてお渡しすると、相手に覚えてもらえるし、喜んでもらえる。それが嬉しくて、だんだんと冗談も言えるようになりました。

これで、楽しい所には、人が集まることがわかりました。

昔から私を知っている人には「大人しかったのに変わったね」と言われます。最近では「変わり者だね」と言われるようになりました(笑)。

※どんな手品かは、ぜひ青柳社長にお会いした際のお楽しみに!

―――そういった新しいものに常にアンテナを張って取り入れられている姿勢が、会社の強みにもつながっているのかもしれませんね。

青柳 人生の中で会社で過ごす時間って一番長いですよね。だから仕事や会社に行くのが楽しくなかったら、人生そのものも楽しくなくなってしまうと思うんです。うちの会社は、みんなが仲良く、楽しく、わいわいできる場でありたい。そうなるように、皆で協力しながら仕事をするほうが、やりがいも感じられます。

もちろん、口で言うのは簡単ですが、その理想に少しでも近づくためには、まずはお客さまに喜んでもらえる仕事をして、しっかりと利益を出すことが大切だと思っています。利益がなければ給料も上がりませんし、結果として仕事も人生も楽しくならないですからね。だからこそ、皆で力を合わせて進んでいければと考えています。

それから、以前、ある講演会で聞いた小山薫堂(こやま くんどう)さんの言葉にとても心を動かされ、共感しました。

それは—―

「その仕事は新しいか?」

「その仕事は楽しいか?」

「その仕事は誰かを幸せにするか?」

この三つ。

小山さんは、どれか一つでも欠けていたらその仕事は受けないと仰っていて。

その言葉がすごく心に響いて、今でも自分の指針にしています。

※小山薫堂(こやま くんどう):放送作家。熊本県のPRキャラクターくまモンを誕生させたほか、『料理の鉄人』や映画『おくりびと』の脚本を手がけるなど、国際的にも高い評価を受けている。

―――青柳社長の経営哲学が会社の文化にも表れていますね。「人に喜んでもらいたい」という想いが、ユニークなホームページにも形として表れていると感じました。

青柳 このゴーストバスターズをパロディにした画像に登場しているのは全員うちの社員なんです。最初は「嫌がるかな・・・?」と思っていましたが、いざ撮影してみると皆ノリノリでやってくれました。アスベスト除去の事業を拡大しようという時期だったので、持っている装備も関連する機材にしました。たとえば超高圧の洗浄ガンを持たせたり、実際にアスベスト除去で使用している機材を取り入れたり。中には私の手品用の剣を持っている社員もいます。後ろにはダンパー車とその超高圧洗浄機本体も写っていて、細部までこだわって作成しました。

さらに、地元・山陽電鉄の明石駅に大きな広告も掲出させてもらったところ「見ましたよ!」という声をたくさんいただきました。また、グッズ化もして、社員たちが家族や友人に「これ、自分なんだよ」って自慢してもらえているのが嬉しいです。

これをきっかけに、「この会社で働いていること」を誇りに思ってくれるようになった気がします。これに出演できていない社員も多くいるので、第2弾・第3弾と続けたい気持ちがありますが、「今はその時期じゃない」と総務部長に止められているので(笑)、またタイミングを見て楽しい企画を発信していけたらと思っています。

▲(左)グッズ化されたクリアファイルとお菓子
 (右)お菓子のパッケージ(注意書き)もよく見て見ると遊び心が満載!

―――他にも、御社ならではの取組みがありましたら教えてください。

青柳 はい。「健康経営」に力を入れています。ホワイト企業認定取得を目指すことにしたのをきっかけに、それまで社内で吸えていたタバコを全面的に禁止し、屋外に喫煙所を設けました。やはり、会社もそうですが、身体が健康でないと人生そのものを楽しめませんからね。

私自身、旅行が好きで、常に運動靴か登山靴を履いているんです。どこへ行ってもたくさん歩けるように。そうした趣味も、健康と体力があってこそ楽しめるものです。

社員の提案で、社内にトレーニングジムを設置しました。現場の仕事は腰に負担がかかりやすいため、怪我の予防や体力づくりのために、社員たちが自然とトレーニングを始めて、仕事にも趣味にも活かしてくれるようになりました。中には、ベンチプレスで全国大会上位入賞や県大会優勝を果たす社員もいて、社内は大いに盛り上がっています。

さらに、その大会を通じて新しい人脈ができたり、今まであまり接点のなかったお客さまから仕事の依頼をいただくこともあるんですよ。外でのこうした交流が仕事にも繋がり、本当にいい循環が生まれています。皆が楽しんで取り組んでくれていて、見ていてとても嬉しいですね。

―――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

青柳 今、私の一番大切な仕事は、親父から引き継いだ会社を、いい形で3代目(息子)に引き継ぐことですね。

現在の課題として感じているのは、次世代を担う人材の育成です。時代の変化のスピードが速い今、これからも安定して利益を生み出していくために、地域に根差したユニークで魅力ある「オンリーワンの会社」を目指していきたいと思っています。

もともとうちの会社には営業部門がなく、現場仕事が中心の体制だったため、お客さまのご都合に合わせて対応できる人員が不足していました。そこで、ある社員に思い切って営業を任せてみたんです。話すのが好きで、数字出すことにもやりがいを感じてくれるタイプで、「仕事って楽しい」と前向きに取り組んでくれました。その社員の“向いている場所”を見つけ、成長を後押しできたことは、とても印象に残っています。

最近、気づいた事は、「人が喜ぶことこそ、自分の喜びになる」ということです。

これからも「新しい」にこだわり、社員が楽しくワクワクしながら、やりがいを持って働ける会社づくりを続けていきたいと思います。そして「この会社で働けて良かった」と心から思ってもらえる会社を目指していきたいですね。私自身も引退までに、まだまだ沢山の“いい人生の思い出”をつくっていきたいです!