事例に学ぶ健康安全クリニック CASE47 健康診断では見つからない脳血管疾患 -予兆、異変に気づいたら精密検査を受けよう-

  1. Aさん(66歳)は朝の清掃作業の合間に同僚と二人で休憩していた。しばらくして頭に激痛が走り、我慢できずにその場にうずくまってしまった。異変に気づいた同僚がすぐに救急車を手配して、病院に搬送された。何とか命は取り留めたが、身体に麻痺が残ったため、リハビリが必要となり、しばらく休職することとなった。

休憩中に激しい頭痛を感じてうずくまったAさん。すぐに救急搬送されたため、一命は取り留めた。

くも膜下出血等による重大事故が頻発

この事例では、Aさんの病変が休憩中だったことが幸いした。もしも、階段や脚立での作業中に発症していればおそらく転落災害となり、重篤な災害となった可能性がある。事故の誘因に体調不良が関連していることも珍しくない。転倒災害の主な原因として「ふらついて」「よろけて」が挙げられるが、単なる体力の低下ではなく、高血圧症や糖尿病などの疾病が背景に潜んでいる場合もある。
慢性的な疾患に起因する重大事故というと、近年相次ぐ自動車の暴走事故が思い浮かぶ。2021年9月11日、東京都千代田区・九段でタクシーが暴走し、自転車やタクシー待ちの人など6人をはね、そのうち73歳の女性が死亡するという重大事故が起きた。青信号になってもタクシーが動き出さないため、後続車がクラクションを鳴らすと、急発進したという。翌日、タクシー運転手自身も死亡し、死因は「くも膜下出血」と判明した。目撃者によると、「信号待ちの際、タクシー運転手が下を向いたままだった」などの異変を感じたという。
同様のタクシー暴走事故は今年1月4日、東京都渋谷区・笹塚でも起きている。1人が死亡、5人がけがをした事故で、運転手(当時73歳)は事故後亡くなっているが、くも膜下出血で意識がもうろうとしたままおよそ10分間にわたって運転を続け事故を起こしたことで、過失運転致死傷の疑いで容疑者死亡のまま書類送検された。

前兆に気付いたらすぐに精密検査を

先に紹介した九段の事故を起こしたタクシー運転手は、事故直前の7月に受けた健康診断では異常は見つからなかったそうだ。くも膜下出血は、脳の表面を覆うくも膜の下の動脈にできた脳動脈瘤(こぶ)が破れて起きる。頭をバットで殴られたような激痛を感じたり嘔吐したりして意識を失う。発症者のおよそ3分の1が死亡し、3分の1に後遺症が残り、社会復帰できるのは3人に1人だ。
専門家によると、くも膜下出血を引き起こす動脈瘤は通常の健康診断では発見できないという。発作が起きる前兆は、血圧が激しく上昇・下降することや急な頭痛、めまいなどが知られているが、動脈瘤が目の神経を圧迫するため、まぶたが開きづらくなったり、物が二重に見えたり、視力が低下する、目に痛みを感じるケースもあるそうだ。
普段、頭痛を感じない人がこれまで経験したことのない激しい頭の痛みや目の異常を感じたら、脳外科か神経内科を受診してMRIやCTなどの精密検査を受けることをお薦めする。また、親や兄弟に脳卒中を発症した人は遺伝的に血管が脆弱である可能性があるため、発症のリスクが高いとされている。日ごろから注意を払うべきだろう。

予防の第一は生活習慣の改善と健康情報の開示から

健康診断の目的の一つは、病気の早期発見であるが、病気に至らないまでも過去と比べて数値が悪化していたり、年齢によっては急激に変化したりする場合もある。病変を示す基礎データについて関心を持ち、日ごろの体調と比較する意識づけが大切だ。その絶好の機会が年に一度の健康診断だろう。また、コロナ感染拡大防止の観点から、多くの職場では日々の健康チェックが実施されている。この機会をとらえて、発熱、悪寒以外にも気がかりな症状(以下の図表で示した予兆)がないか確認してほしい。
労働者の健康確保は管理者の責任であるが、健康情報は重要な個人情報であり、管理者としてその扱いには慎重を期すべきである。疾患を考慮した勤務の調整や業務内容の変更は本人との十分な話し合い(同意)の上、本人に不利益を生じさせないという原則にのっとり、慎重に進めるべきである(下記リンク先にある関連通達を参照のこと)。
また、労働者自身も各自、健康の維持、確保に努める必要がある。個人で行う予防法は、塩分摂取を控え、バランスの良い食事を心がける。酒量を減らすなど、高血圧症や糖尿病など生活習慣病の予防と同じと考えてよい。さらに、極度のストレスを減らすことも大切だ。特に50代以降は日頃から脳の疾病を意識するべきだろう。

公益社団法人
全国ビルメンテナンス協会広報委員会 委員
阿部研二さん

1977年中央労働災害防止協会に入社。健康快適推進部長、出版事業部長を経て、2019年5月まで常務理事。