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CASE56 後を絶たない階段での転落事故死 階段は危険個所という認識を再度徹底しよう

2022/07/29 15:00

2022/7/29 15:00 更新

ホテルの設備管理を担当するAさん(70歳、男性)は、水道故障の修理に使えそうな部品を調達するため、同僚とともに別棟の給水設備へ向かった。現在使われていない別棟では照明を点けられないため、懐中電灯を手に2階を物色。適当なモノが見つからず、2階から1階に向かおうとしたその時、Aさんは同僚の動きが気になって階段の降り口に気づくのが遅れてしまった。足を踏み外して踊場まで転落、死亡事故となった。

事例は、昨年9月に実際に起きた事故を元にしています。令和3年のビルメンテナンス業における死亡事故で、転落・墜落事故が10件発生しています(日本ビル新聞6月20日)。そのうち階段、その付近での事故が4件も発生しています。他の事故では、窓清掃関連が3件、テラスや屋上からの墜落事故が3件でした。

窓や屋上作業は危険だという感覚が強い一方で、階段による死亡事故がこれほど多いと認識している人は少ないのではないでしょうか。本コーナーでも20年10月に階段事故の危険について取り上げ、高齢者の身体機能の低下による危険性についてお伝えしました。今回あらためて、階段の危険性について認識いただきたいと思います。

一般的な階段の角度は、35度程度です。この角度はスキージャンプ競技の助走路とほぼ同じ。山登りをする人ならば35度はかなりな急斜面ということが分かるはずです。それでも日常的に利用する施設ですから、“危険”という認識が薄れてしまうのではないでしょうか。

足元に視線、手すり持ちを徹底しよう!

階段では特に下りで転落事故が多く発生します。特に以下の点に注意しましょう。

☑本来足もとに注意を注ぐべき視線が、壁に貼られた掲示物や踊り場の時計などに視線を奪われてしまうことがあります。むやみに階段の壁に掲示、表示することは避けましょう。
☑階段は、下りはじめの3段、最後の3段が最も危険です。突っかかったり、空足を踏んだりする事故が多発しています。
☑事故を防ぐ、少しでも被害を少なくするためには、両手にモノを持たず、片手は必ず手すりを持つ、これが第一の予防対策です。

皆さんは、朝起きて歯を磨く習慣がほとんど身についていると思います。なんだかスッキリしない、気持ちが悪い、こんな感じを抱きます。階段の手すりもぜひ同じような感覚になるまで、予防対策を徹底しましょう。命に関わることなのですから。

ながら作業を止めよう

ビルメンテナンス業にとって階段は、移動の手段だけでなく、清掃の対象となる施設です。つまり、モップを掛けながら、ホウキで履きながら、といったいわゆる“ながら作業”となります。だからこそ、作業中はしっかりと集中を。同僚と話しをしたり、通行する人に挨拶をしたりすれば、集中力が途切れてしまいます。必ず手を止め、足を止めて行いましょう。

清掃は“上から下へ”が基本ですが、階段の場合は、事故防止の観点から出来るだけ“下から上へ”の作業に切り替えてください。ハンディクリーナーでの階段清掃については、原則上り作業とするところも多くなっています。

階段事故は重大事故になりやすい

事例のように死亡事故はもちろんですが、階段事故は重傷災害になることが多く、特に頭部を強く打った場合は大きな障害が残ります。労災統計では災害の重症度を示す割合として「強度率」というものを用いており、災害の発生頻度は「度数率」という割合を使います。以下に計算の方法を示しますが、ここ3年間でビルメンテナンス業は徐々に数値が悪化しています。作業者の増加や高齢化が影響しているとも考えられますが、事故のない、安全な職場で働くことで、人生を明るく、生き生きと過ごすことができます。

令和元年

令和2年

令和3年

度数率

3.18

3.99

4.15

強度率

0.33

0.12

0.19

度数率:100万延べ実労働時間当たりの労働災害死傷者数で、労働災害の発生頻度を表わす

計算1
計算例: 1日5時間のパート社員が年200日稼働した場合1000時間。このパート社員が1000人の会社で、延べ実労働時間が100万時間。この会社で、年間1件の労災事故が発生した場合、度数率1.0となる。4.15という数字は、製造業1.31、運輸業3.31、卸・小売り業2.31などと比べても高い割合です。

強度率:1000延べ実労働時間当たりの延べ労働損失日数で、災害の重さの程度を表わす
計算2
計算例:1日5時間のパート社員が年200日稼働した場合1000時間。このパート社員が1000人の会社で、延べ実労働時間が100万時間。この会社で、年間5件の労災事故が発生し、労働できなかった日数が、合計で100日だった場合、強度率0.1ということになります。1件当たり平均20日間の休業災害ということになります。0.19という数字は、この計算の約倍ですから、1件当たりの休業日数は40日近くとなり、より重い災害が多かったということになります。0.19という数字は、運輸業0.22、卸・小売り業0.20と近い割合です。

「安全・健康のツボ」をご覧ください

全国ビルメンテナンス協会では、6月から動画ステーションで「安全・健康のツボ」の配信を開始しました。7月10日のテーマは「階段」です。ここで紹介した内容を短い動画でまとめています。ぜひ併せてご覧ください。

公益社団法人
全国ビルメンテナンス協会広報委員会 委員
阿部研二さん

1977年中央労働災害防止協会に入社。健康快適推進部長、出版事業部長を経て、2019年5月まで常務理事。