CASE88 空き缶を素手で処理しようとして、指を切る!―いつもなら、切創防止手袋をして作業するはずなのに―

【事故エピソード】
ショッピングセンターの清掃を担当するYさん(72歳)。各店舗から出される廃棄物(業務関連ゴミ)の処理に悩まされています。
業務関連の廃棄物は各店舗で処理を行うことになっているのですが、そのルールがなかなか徹底されません。この日も飲食店からだと思われる一斗缶が一般ごみのエリアに置かれていました。Yさんは缶を少しでも小さくつぶしてから、不燃物の回収コーナーに移動させようと思い、外に開いていたフタを缶の中に押し込もうとしました。
その時、親指が滑って、缶の切り口に当たってしまい、手のひらの付け根の部分まで数センチ切ってしまいました。
[1]事故防止対策のポイント―業務に必要な器具、保護具を整備する
事故のあったこの職場では、以下の2つの対策が実施されました。
❶ゴミ置き場に切創防止手袋を常備する
❷空き缶をつぶす時は道具(ペンチ、缶切りなど)を使う
確かにこの二つの対策、「空き缶処理作業は道具と手袋をしっかり着用して作業すること」で、事故はある程度減るでしょう。しかし、手袋や道具を常備しても、必ずこれを使用するかどうかが次の課題となります。この事故を引き起こす背景には、心理的要素と危険作業についての認識の不足ということが隠れているからです。
[2]心理的要素と危険への感受性―指差し確認で高める
心理的要素には「またこんなことされて、余計な仕事が増えちゃうよ」という怒りの感情、そして通常の業務を遅らせるわけにはいかないという焦りの感情、そして「他の人に少しでも危なくないように缶をつぶして、小さくしておこう」という思いやりの感情です。
「面倒くさいな、でもみんなのためだ、早く片付けよう」という思いが、「手袋着用」という決められたルールを守ることよりも優先してしまうことが考えられます。これがしばしば事故につながってしまいます。しかし、こうした気持ちは大切に、無にならないようにしたいものです。そのためにも、「安全第一・安全最優先」を徹底させることが重要です。
もう一つの危険についての認識の不足ですが、「開いた缶のフタの切り口は鋭利で、危険である」という感覚が鈍くなっていたということです。空き缶のフタで危ない体験をしたことのある人はたくさんいると思いますが、素手で扱ってもケガをしなかったこともあったでしょう。
こうした、「上手くいった、大丈夫だった」という成功体験が危険感受性を鈍くしてしまうわけです。電車への駆け込み乗車などがこの典型的な例ですが、この解消には作業前の危険予知や指差し確認が有効です。ぜひ実践しましょう。

[3]マネジメント対策も忘れずに
心理的要素にも関係しますが、この作業は各店舗が各自で処理するというルールが守られていれば必要のない作業でした。事故も起きなかったはずです。作業者に余計な仕事や精神的な負担をかけないためには、組織的に対処する必要があります。作業者が各店舗にルール順守を呼びかけることは現実には難しいことですから、ショッピングセンター担当マネジャーなどが、管理室や各店舗へルール徹底をしっかりと申し入れる必要があります。
こうした会社の「作業者を事故から守る」という姿勢が作業者に伝わることで、安全意識が向上していきます。

公益社団法人全国ビルメンテナンス協会
広報委員会 委員
阿部研二さん
1977年中央労働災害防止協会に入社。健康快適推進部長、出版事業部長を経て、2019年5月まで常務理事。
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