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「聞く力」で想いを共有し、一人ひとりの能力を結集する

2026/07/16 12:00

―――これまでの経緯について教えてください。

福原 当社は、両親が1979年にじゅうたん・カーペットクリーニング業として創業しました。その後1980年に株式会社三勢を設立し、現在に至っています。ビルメンテナンスを中心に、お客さまの困りごとやニーズに応えることを方針として、それぞれの事業を進めています。

―――ご自身は企業の承継についてどのようにお考えでしたか?

福原 私自身はこの決断するまでは、本当に意識していなかったのが正直な気持ちです。実は前職で20年間、熊本県の県立高校で教諭をしていました。

―――意外な前職ですね。ビルメンテナンス業とは畑違いだと思います。

福原 確かに直接的な関りはありません。学生のころ数学がとても好きで、サッカーもとても好きで、もう数学とサッカーの「オタク」だったんです。この二つを教えることができるのはとても良い仕事だと考えて、高校の教諭になりました。
その後、父が体調を崩して入退院する時期がありました。その時に会社に戻ってこないかと話があり、悩みましたが決断しました。まったく畑違いではありましたので学ぶことが多いですが、教諭として学んだことも無駄にはなっていません。

―――どのようなことでしょうか?

福原 例えて言えば「聞く力」です。聞くことは指導の最初であり、関係性を築くための基盤です。相手の話を聞くことそのものが、人間関係づくりの根本であると思います。なぜなら「聞く」という行為は、相手に関心を持つこと、相手を受け入れようとする受容の眼差しを持つことだからです。
これはビルメンテナンス業に限らず、どのような職種であっても同じだと思います。教諭として生徒と向き合う姿勢を社員に置き換えた時に気づきました。

―――具体的には、どのように社員と向き合うということでしょうか?

福原 具体的には現在、課長職以上とは毎月1回、個人面談を実施しています。社員がどのように考えているか? この会社をどのようにしていきたいのか? 経営者としてそれを知らなければいけないと考えました。そこで「話すこと」「提案すること」を企業の第一目標として掲げました。
企業を承継してわかったことですが、建物管理はすごく奥が深くて、お掃除だけではなくて、工事関係もすべて、官公庁を問わずビルオーナーのご要望に応じなければいけないということを認識しました。それが故に自分自身が理解したことを社員に伝え、そして社員の考えを聞くことが当社の強みになるかと考えています。

―――「聞く力」をビルメンテナンス業ではどのように活用されていますか?

福原 弊社の存在する意義は何か、社会にどのように貢献できるかなどを経営計画書としてまとめています。この中では各種方針やお客さまへの対応、人材育成、さらにはコミュニケーションのあり方などを明文化し、内容を社員全員と現場スタッフに共有しています。

当たり前ですが、「聞く力」を磨くためには他者の話を理解しなければなりません。同様に、経営計画書を配るだけでは意味がありません。だからこそ「毎朝読む」「社長が解説する」という仕組みで経営計画書に触れる機会を高めています。
朝礼で毎日読み合わせする方針が決まっており、皆で読み合わせして、私(社長)がその方針の意味・背景を解説します。私が一方的に話すのではなく、朝礼における司会・進行と朝礼のまとめは当番制にして全員に担ってもらっています。確かに話し下手や話し上手といった得手不得手はあります。しかし仮に話し方が上手でなくても、内容を理解していればその想いは伝わるのです。そして皆でその内容を理解し、共有します。

さらには、内容を理解したうえで組織としての部門目標も設定します。当然「部門・部署」としての目標になりますので、チームプレイが重要です。このあたりがサッカーと似ていると感じています。表現は正しくないかも知れませんが、一人ひとりに役割があり、組織として機能しなければなりません。

―――組織が力を蓄え、行動するためには個々の力が必要だと思います。

福原 そのとおりです。だからこそ教育が必要です。弊社に所属するメンバー一人ひとりの能力は違うので、まずは計画書を通して考え方・価値観の教育を地道に行います。考え方・価値観が揃うと、それぞれ異なる能力の人たちにチームワークができてきます。これはビルメンテナンスに限った話でありませんが、いずれにおいても所属するメンバー一人ひとりの能力が結集すれば生産性が高まり、利益率向上や事業拡大、業績向上に繋げることができます。私がまず取り組んだのは、我々の職場は本当に仕事がやりやすい状態にあるかを検証すること、いわゆる環境整備でした。この考え方は会社としての目標づくりを行う上で大変に活かすことができました。

目標を達成するためには、どういうことを実行するかという実行計画が大事です。そして計画したことを実行した後に、その振り返りとして検証をします。きちんと振り返りを行い、実行したことを部門長の会議などでそれぞれが報告し合って、これはうまくいってるけど、どうやってうまくいったのかとかコミュニケーションをとりながら深めています。当然ながら上手くいかない場合もあります。その時には「このようにしたらうまくいくよ」というようなことを、部門長同士が学び合っています。
私は、目標が達成できなかったからといって怒ることは一切しません。叱責しても、受けた方には萎縮の感情しか残らないのです。これも教員として実体験で学んだことです。社員が委縮しては業績の向上などあり得ません。特にビルメンテナンスは人こそが財産であるからです。

だからこそ、目標を達成したら褒めますけど、達成できなくても怒らずに、どこに問題があって達成できなかったのか、例えば実行計画が間違ってるんじゃないかとか、計画を完全に100%実行したけど目標が達成できなかったときは実行計画を練り直してやり方を変えてみよう、と提案しています。
あくまでも「提案」ですから、社長としての案でしかありません。しかしながら私の案を理解してくれた人は建設的な逆提案をくれます。このように紋切り型ではなく、社員も考えるし社長も考える。そして、改善点を見出していく。その基本にあることは間違いなく「聞く力」であると信じています。その甲斐もあり、増収、増益に結びつけることができました。

一方、コロナ過では影響も大きいものがありました。指定管理者制度で受契していた施設が休館することになり、利用者も激減し、落ち込みました。

―――確かにビルメンテナンス業界にとってコロナ過は甚大の影響を及ぼしました。

福原 その代わりと言っては不謹慎なのですが、食品工場やホテルからの清掃・消毒業務の依頼がありました。

あの時、清掃・消毒業務を行ううえで一番のポイントは「作業する社員をどのように守るか」ということでした。同業で非常に懇意にさせていただいている企業があり、衛生管理について熱心に勉強されてる会社なので、当社もその企業から学ばせていただき、それを参考にしました。どのように作業をすればよいのかを私自身も勉強させていただきました。
社員を守りながらお客さまの要望に応じるために、私が考えたのは「常に現場で作業をしている人やベテランの人と話すこと」でした。まずは率先垂範のことわざでありませんが、皆が作業を安心して作業を行うために、私が率先して現場に入って作業を行いました。改めて現場で実感したのは、「きちんとした知識があり、正しいことが行えれば、恐れることはない」ということでした。そこからは皆が作業に携わるようになり、大変に有難いことでした。

これは私自身の経営を考える上での根幹に関わることなのですが、値段のみで競争して、安くして、そして従業員の給料も安いというのは、絶対に良くないと思っています。きちんと利益を出し、その結果は従業員に還元するという会社を目指したいと思って事業を行っています。

―――そのお考えの成果が、教えていただいたとおり増収・増益に結び付くのですね。

福原 あまり大げさには考えていません。やはり発注者やビルオーナ等といかに信頼関係を構築できるかだと思います。
ここでいう信頼関係はもちろんお客さまですが、それだけではありません。社員とも同じです。不断の積み重ねと、やっぱりそれだけやってきたという実績だと思います。お客さまからここもやってください、できればここもやってもらえませんかっていう感じです。

―――話は変わりますが、ビルメンテナンスにとどまらず御社は広範な事業展開をされていますね。

福原 最近では介護事業を始めました。自分の親を預けてもいいような施設にしたいという想いがあり、介護を受ける側には長年の人生の中で育てたプライドや誇りであると思います。そのようなものを守っていけるような介護施設にしたいという気持ちで事業を行っています。

さらには、保育園を企業指導型保育園として行っています。企業指導型保育園とは、企業が主に自社従業員の子どものため運営する保育施設になります。これは多様な働き方に対応して受け入れを行いつつ、地域枠を通じて待機児童解消にも貢献することを目的としたものです。
この事業を始めたきっかけは、熊本県のサッカー協会がフットボールセンターを作っていて、そのフットボールセンターをただ単にサッカーの施設として活用するだけでなく、何かできないかという主旨の相談を受けたときに、こんなに広いんだったら企業主導型保育園をやることはできないかと考えました。子育てが就労の妨げになってはいけない、働く世代を企業として支援したいという思いもあり、進めています。

―――最後になりますが、福原社長が考える三勢の今後はどのような姿でしょうか?

福原 少し漠然としますが、夢のある会社にしたいと考えています。
教諭の経験で実感したことでもありますが、夢を持ってやることは未来に繋がることだと思います。だから社員にも「夢のある会社にしよう」、そのうえで「夢のある会社ってどんな会社かな」って聞いたりしてます。そうすると「給料が高くなっていく方が夢があると思います」という社員もいるし、逆に「自分がやりたいとを思うことができる会社です」と答えてくれる社員もいます。いろいろな意見に触れることにより、自分の考えにも気づきが生まれます。

ビルメンテナンスは、どうしても良いイメージが抱きにくい業種だと思います。でも本当は誇り高い仕事だし、そのことは確信を持って断言できます。だからこそ企業としての夢、当社で働いている人の夢を大事にしていきたいと考えています。