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2026年7月法改正「障がい者雇用」と安定した職場づくりの進め方

2026/05/22 11:45

「採用後の早期離職」や「従業員の高齢化による作業品質への不安」など、人手不足が続くビルメンテナンス業界において、人材の確保と定着は急務となっています。ビルメンテナンス業界の業務は手順の決まったルーティン作業が中心ですが、この「反復性」は、着実な作業を得意とする「障がい者雇用」において大きな強みとなります。特性と業務の親和性が高く、長期的な定着につながりやすい傾向があります。

2026年7月より、障害者雇用促進法の改正に伴い法定雇用率が2.7%へ引き上げられ、雇用義務の対象となる企業の範囲も拡大されこれまで対象外だった規模の中小企業も新たに対象となる可能性があります。本記事では法改正のポイントから、定着を促す現場づくりの仕組み、活用できる助成金や公的サポートなどを解説します。

●基本ルールと2026年の法改正

2026年7月の法改正は、これまで対象外であった多くの中小企業に雇用義務が生じる重要な転換点となります。

ここでは、制度の基本ルールと直近の改正内容について、以下の2つのポイントから解説します。

2026年7月~義務のラインが「37.5人以上」に拡大

2026年7月1日、障害者雇用促進法の改正により法定雇用率が2.5%から2.7%に引き上げられ、雇用義務を負う企業の対象が常時雇用する従業員40人以上から「37.5人以上」に広がります。

ここでいう算定基礎となる人数は単純な従業員の頭数ではなく、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者を「0.5人」として計算する仕組みです。小売・飲食・介護・運輸・建設・製造など、業種を問わず、これまで制度の外側にいた中小規模の事業所が一斉に対象となる改正です。

算定対象の従業員数が「37.5人以上」になった時点で、「1名以上」の障がい者を雇用する義務が生じることになりますので、これまで対象外だった30〜40人規模の企業も、まずは自社の正確な算定従業員数を把握し、早めに情報を整理しておくことが大切です。

中小企業に関わる「納付金」と「助成金」の仕組み

法定雇用率を達成できない場合、不足1人につき月額5万円の「障害者雇用納付金」を納める義務があります。ただし、現行制度において常時雇用する従業員が100人以下の企業は納付金の適用対象外となっており、未達成でもすぐに金銭的なペナルティが生じるわけではありません。だからといって対応を後回しにするのはあまり得策ではありません。継続的に未達成の場合、法律に基づくハローワークからの計画作成命令や、企業名公表といったリスクもあります。

一方で、義務の有無に関わらず、新たに雇用した際には国から手厚い「助成金」が受けられる仕組みがあります。制度の趣旨を正しく理解し、これらの支援措置を適切に活用していくことが求められます。

●雇用をバックアップする「助成金」の詳細

障がい者雇用における初期負担を軽減し、雇用の拡大と定着を後押しするため、国は様々な助成金制度を設けています。

ここでは、中小企業が特に活用しやすい2つの助成金制度を中心に、その具体的な内容を解説します。

中小企業に手厚い「特定求職者雇用開発助成金(特開金)」

「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」、通称「特開金」という助成金があります。これはハローワーク等の紹介で障がい者を継続雇用した事業主に対し、賃金の一部を定期的に支給する制度です。対象となる方の障がい等級や労働時間といった条件によって支給額は異なりますが、要件を満たした場合、最大240万円(支給期間3年)の助成を受けられるケースもあり、採用に伴う人件費の負担軽減につながります。

ただ自社や求人サイトからの直接採用は対象外になるので注意が必要です。ハローワークまたは適法な民間の職業紹介事業者を経由した採用であることが必須となるため、何から始めたらいいかわからない場合は、ハローワークの窓口で聞いてみることをお勧めします。

施設改修や備品購入への補助

「障害者作業施設設置等助成金」を活用すると、スロープの設置やバリアフリートイレの改修といった施設整備のほか、作業に必要な専用器具・事務用品の購入費用の一部を補助してもらえます。

「設備投資まで手が回らない」と感じている企業にとっては積極的に活用する意義がある制度ですので、ぜひ検討してみてください。

●安定した定着を支える外部サポート

長期的な定着を図るためには、自社だけで課題を抱え込まず、専門機関のノウハウを活用することが確実な手段です。企業側の負担を軽減し、より安定した就業環境を構築できる3つの外部サポート制度を解説します。

「トライアル雇用」で相互の相性を確かめる

採用後のミスマッチへの不安には「障害者トライアル雇用」の活用をお勧めします。こちらは原則3ヵ月の試行雇用中、国から月最大4万円(精神障がい者は月最大8万円・最長6ヵ月)が支給される制度です。

この期間に本人と現場のお互いが相性を確かめ、「続けられる」と判断してから本採用に移ります。ミスマッチのリスクを抑えながら進める、安全性の高い採用手法です。

「ジョブコーチ」に現場での指導を相談する

現場での具体的な指導方法に不安がある場合は「職場適応援助者(ジョブコーチ)」制度が有効です。外部の専門家が実際の職場に入り込み、障がいのある本人への作業指導だけでなく、周囲のスタッフへの助言や職場環境の調整まで担ってくれます。

地域障害者職業センターなど公的機関が提供するジョブコーチ支援は、原則無料で利用できます。「採用できたはいいが、定着してもらえるか不安」という段階から相談を始めても構いません。むしろ採用前から関係をつないでおくと、いざというときにスムーズに動けますので積極的に相談してみましょう。

迷ったらまずは専門機関に相談を

障がい者雇用に関する具体的な手続きや対応に迷った際は、公的機関を窓口として活用することが基本となります。求人の出し方や採用に関する初期相談は「ハローワーク」が対応します。より専門的な支援が必要になれば「地域障害者職業センター」(職業評価・ジョブコーチ支援)、生活面も含めたトータルなケアが必要になれば「障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)」が頼りになります。

この3つを覚えておくことで、状況に応じた適切な支援を受けられます。まずはできるところから始めてみましょう。

●「互いに無理なく働く」ための現場のヒント

ビルメンテナンス業務は作業工程を分解しやすいため、少しの工夫で業務全体の確実性を高めることができます。

既存の業務フローを最適化し、すべてのスタッフにとって働きやすい現場を実現する2つのヒントをご紹介します。

業務の「切り出し」と特性に合わせた「分担」

まずは「仕事」を分解するところから始めましょう。

ビルメンテナンスの仕事には、床清掃、ゴミの分別・収集、共用部の拭き掃除、消耗品の補充・整理など、手順が明確で繰り返しの多い作業が豊富にあります。これは障がい者雇用にとっては強みになります。決まったルーティンを着実にこなすことが得意な方にとって、この仕事はとても向いているのです。

大切なのは、「一連の業務」を細かく分解して考えることです。「フロアを拭く」という一言で済ませていた工程も、モップを取り出す→バケツに水を入れる→洗剤を規定量加える→モップを浸して絞る→決まったルートで拭く→バケツの水を捨てる→道具を洗って干すと7工程以上に分けられます。

ダンボール箱の組み立ても同様です。「箱を作る」ではなく、土台を広げる→底を折る→テープを貼る→側面を起こす→上を折り込む→シールを貼る、と6工程に分解すれば、「テープ貼りが正確で速い人」「シール貼りの位置合わせが得意な人」という形で、得手不得手を活かした分担が自然と生まれるでしょう。

東京都が公表している知的障がい者向け清掃業務管理マニュアルでも、「できる部分を集めて工程を組み立てる」ことが定着の鍵として明示されています。

手順の「視覚化」は全員のミス削減につながる

分解した工程を写真とイラストで示せば、言葉だけでは伝わらなかった手順が一目で伝わります。また、業務の進捗を確認できるチェックシート(例えば、完了したエリアに印をつける等)を導入することで、作業の漏れやミスを大幅に削減できます。

こうした「誰が見ても同じ作業ができる」マニュアルは、高齢のパートスタッフや外国人スタッフにも有効です。障がい者雇用を機に整備した仕組みが、気づけば職場全体の品質を底上げしていたという事例は多く報告されています。

●まとめ:誰もが働きやすい職場を目指して

今回は法改正の話から始めましたが、この記事でお伝えしたかったのは、ビルメンテナンスという仕事は、繰り返しの手順、細部への注意を要する力が直接品質につながる仕事です。そしてその力を持つ方たちが、障がい者雇用という扉を開いてこの業界に来られます。

法定雇用率の達成を「義務のクリア」と捉えるか、「安定した人材を迎える機会」と捉えるか、その視点の違いが、5年後10年後の職場の姿を変えていくはずです。

国の支援もフル活用し、助成金は積極的に使う、外部の協力者には早めに頼るなど、できることから始めましょう。

■執筆者
中村 郁
資格:社会保険労務士・両立支援コーディネーター;キャリアコンサルタント
中小企業の労務管理・採用支援を専門とする社会保険労務士。障がい者雇用をはじめとする多様な人材活用、就業規則の整備、助成金活用のサポートを通じて、企業と働く人が共に安心して働ける職場づくりを支援している。