人手不足が深刻化し、従業員の高齢化も進んでいるビルメンテナンス業界において、人材の確保は大きな課題です。ビルメンテナンス企業が生き残る対策として、業務プロセスを見直す「BPR」の視点が欠かせません。「人を増やさなくても全体の業務を回せる」「高齢者や未経験者であっても円滑に業務に対応できる」体制を構築することが効果的です。
本記事では、ビルメンテナンス企業におけるBPRの原則と実践について解説します。
●利益率を高める「業務改善」を始める理由
業務改善に取り組むことで業務コストが削減され、スタッフは営業活動や顧客サービス向上など、売り上げ拡大につながる業務に対応しやすくなります。その結果、利益率の向上につながります。
ここではまず、業務改善(BPR)の基本について解説します。
・業務改善(BPR)とは何か?その目的と効果
業務改善(BPR)とは、企業の課題を解決するために、既存の業務プロセス全体を抜本的に見直し、必要な組織やシステム、職務などを再構築する手法のことです。
紙ベースでの作業や煩雑な情報管理、緊急時の対応といった業務の非効率性は、多くのビルメンテナンス企業にとって共通の課題です。こうした業務プロセスを改善することで、人材確保が難しい状況下でも業務を回せるようになります。また副次的な効果として、人件費や業務管理に関するコストの削減も期待できます。
・なぜ高額な投資の前に「ムダ削減」が必要なのか
業務改善を行うにあたり、業務を効率化するツールやシステムの導入など、IT投資を行うことも少なくありません。
しかし、このような投資を既存業務の「ムダ削減」に取り組むことなく行ってしまうと、ムダな部分を残したまま業務の自動化やシステム化が行われてしまい、投資による効果が削減されてしまいます。
業務改善の成果を確実に得るには、投資を行う前に、業務のムダ削減に取り組むことが必要です。
●現場の非効率を特定する「ムダ・ムラ・ムリ」の分析手法
次に、ビルメンテナンス業務の現場における「ムダ・ムラ・ムリ」をチェックするポイントと、「ムダ・ムラ・ムリ」の存在を可視化する方法について解説します。
・(1)ムダのチェック
ビルメンテナンスの現場では、「移動」「在庫」「手待ち」「検査・報告」の4つの場面でムダが顕在化しやすい傾向にあります。
まず「移動のムダ」は、清掃や設備点検の際、作業導線が非効率で資材を取りに戻るなどの手間が生じているケースです。次に「在庫のムダ」は、備品が過剰にストックされることで、必要な資材を探すときに余分な手間が生じている状況などを指します。また作業の工程が噛み合わず待ち時間が長くなる「手待ちのムダ」や、必要以上に煩雑な確認や報告を行う「検査・報告のムダ」にも注意が必要です。
これらの過剰な工程は、スタッフの時間を奪う要因となります。まずはこういった作業を客観的に把握し、本来は不要な動きが含まれていないかを精査しましょう。
・(2)ムラのチェック
ムラとは、業務のばらつきのことです。ムラを放置することは品質の不安定さだけでなく、作業の属人化を招く原因となります。
「作業の量や品質のムラ」は、忙しいときと暇なときの差が激しい(作業の量)、人によって清掃や点検などの品質に差がある(作業の品質)ことを指します。また「手順のムラ」は、人によってやり方が異なることで、特定の担当者以外に作業ができない業務の属人化を引き起こす可能性があります。
さらに、特定の人に作業負担が集中する「負担のムラ」は、生産性の低下だけでなく、欠勤や離職といった経営リスクにもつながります。
作業のムラを可視化し、標準化して誰が担当しても一定の成果が出せるようにすることが、効率化の鍵となります。
・(3)ムリのチェック
最後に、人や設備に対して過度な負荷がかかっている「ムリ」の状態を特定します。
「人的能力のムリ」は、担当者のスキルや身体的限界を超えた負荷を与えている状態を指します。これは作業ミスなどにつながる可能性があります。「設備能力のムリ」は、清掃機器や設備に無理な稼働をさせることで、設備故障などが生じる可能性があります。また現場の実状を無視した「スケジュールのムリ」にも注意が必要です。 ムリの放置は事故や故障、品質の低下を招きます。ムリを排除し持続可能な作業ペースを設計することが、安全で安定した経営基盤の構築につながります。
●即効性のある業務改善を実行する3つのステップ
確実に業務改善を行うための3つのステップを解説します。
・ステップ1:「業務分析シート」で非効率な業務を可視化する
現場業務にどのような「ムダ・ムラ・ムリ」があるか特定するには、「業務分析シート」を使って、以下の流れで整理するのが効率的です。
※「業務分析シート」のサンプルをご用意しています。以下からダウンロードして参考にしてください。
(1)現在存在する業務を洗い出し、体系化する
ビルメンテナンス企業の業務は、大まかに「清掃管理」「保安管理」「設備管理」「衛生管理」「その他」に区分できます。それぞれの区分ごとに、現在存在する業務を洗い出します。対象とするのは日常的に発生する業務に限定してかまいません。
(2)業務ごとの業務フローと平均作業時間を明確にする
(1)で洗い出した業務ごとに、「業務フロー」と「平均作業時間」を明確にします。「業務フロー」とは、どのような作業から始めて、その後どのような作業を行い、どのような作業で業務を終えるのかという作業手順のことです。また「平均作業時間」は、その作業の手順を理解している人が、該当業務をやり終えるのに通常必要となる平均的な時間です。
(3)業務ごとにムダ・ムラ・ムリを洗い出し、記録する
最後に、(1)で洗い出した業務ごとに、前述した「ムダ・ムラ・ムリ」を洗い出し、記録します。ムダ・ムラ・ムリの洗い出しに関しては、既存業務に対して先入観のない第三者の協力を得ながら行うと効果的でしょう。
実際の業務を例に、整理方法を紹介しましょう。
「ビル内の巡回・点検」という業務があれば、例えば(1)前任者から業務報告を受ける、(2)フロアーごとの点検を行う、(3)異常箇所の簡易修繕を行う、と工程を分解します。さらに(1)の工程を、①業務実績の確認、②重点確認情報の共有、③予防保全情報の共有、④業務の引継ぎ、と分解します。
次に担当者への聞き取りなどを実施し、分解した業務ごとの平均作業時間を確認します。
その結果、例えば「①業務実績の確認」に多くの時間が割かれている実態が明らかになったら、業務実績の確認をどのように行っているか担当者に確認し、ムダ・ムラ・ムリが生じていないかをチェックします。
それにより、例えば「報告すべき項目数が多く前任者の報告時間が長くなっている」「異常値の基準が統一化されておらず状況把握に手間取っている」といった実態が明らかになった場合、ムダ・ムラ・ムリとして記録を行います。
これらの記録は、業務分析シート上では「ムダ-報告に関すること」といった記号的な形式で記録を行い、別紙に詳細をメモする運用を行うことで、非効率の可視化がやりやすくなります。
・ステップ2:排除すべきムダを特定し、新しい業務手順を設計する
ステップ1で可視化した業務のムダ・ムラ・ムリに対して、「やめる」「減らす」「変える」の視点で業務改善を考えます。
・やめる
「やめる」とは、実施しなくても支障が生じない業務をやめてしまうということです。昔からの流れでずっと同じやり方で業務を続けてしまうことが往々にしてありますが、環境や状況が変化することで必要がなくなる業務も存在します。
例えば、「前任者からの業務報告」に関して項目数が多いことで報告時間が長くなっているなら、そもそも報告が不要な項目はないか考えてみるということです。
・減らす
「減らす」とは、量や頻度を減らしても支障が生じない業務を減らしてしまうということです。例えば、チェックすべき項目数が多いことで報告時間が長くなっているなら、チェックポイントを減らすことができないかを考えてみるということです。
・変える
「変える」とは、手順や方法を変えても支障が生じない業務を変えてしまうということです。例えば、紙ベースの報告書を作成しているのであれば、業務報告支援ソフトを導入してスマートフォンやタブレットで報告する方法に変えられないかを考えてみるということです。
・ステップ3:改善を定着させるための仕組みを作る
業務のムダ・ムラ・ムリを明確にした後は、業務改善に取り組み、定着させるための対応を行います。
まず、どのような変化を目指すのかの「目標」と、目標を実現させるための「重要評価指標(KPI)」を設定することが効果的です。
例えば、「前任者からの業務報告」に対する平均作業時間を20分から5分に短縮するという目標を掲げた場合、「報告の項目数」「報告の範囲」「情報共有の範囲」を重要評価指標に設定するというような対応です。
目標を設定した後は、実施手順を明らかにした上でその内容をマニュアル化して、現場の担当者に教育を行います。人は本質的に、作業内容や方法が変化することを好まない傾向があります。そのため改善を定着させるには、以下の対応を行うとよいでしょう。
①業務改善に取り組むことによるメリットを説明する
労働条件の改善、収益性が高まることによる賃上げにつながるなどといったメリットを説明することで、業務改善へ取り組むことへの意欲が湧いてきます。
②業務改善に取り組めるイメージを持たせる
新しい手順や方法に順応するためのトレーニングを行うことで、業務改善に取り組むことへの抵抗感が薄れてきます。
③業務改善への取り組みが進んでいることを実感させる
前述した重要評価指標(KPI)が改善していることを定期的に説明することで、業務改善への取り組みが進んでいることを実感でき、業務改善を受け入れることができるようになります。
●業務改善がもたらす競争力と働きがい
業務改善に取り組むことで事業コストが削減され、収益性が高まり、事業の付加価値を高めるための投資を行う余力が生まれます。付加価値が高まれば顧客満足度が向上して、企業の事業競争力もアップします。さらに、付加価値の高い業務に取り組むことで従業員が働きがいを感じることができるようになり、定着率向上も期待できます。
業務改善は、企業が生き残り成長を遂げるための効果的な戦略であると言っても過言ではないのです。
