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ビルのメンテナンスから 地域のメンテナンスへ。 静脈産業であるビルメンが、 これからの時代の主役になる。

2021/11/09 01:05

2021.11.12 00:00 更新

―― 五十嵐さんはビルメンテナンス企業の役員でありながら弁護士でもあるという、極めて異色の経営者です。

五十嵐 秋田県大館市にある「東北ビル管財」というビルメンテナンス企業は、父が創業した会社です。現在、私は同社の専務を務めておりますが、同時に東京に事務所がある「となりの法律事務所」で代表弁護士もしています。

―― いつもはどちらにいるのですか?

五十嵐 東京が多いですね。情報量も人も、やはり圧倒的に東京に集まってきますので。

―― ビルメンであり弁護士であるということは、都市社会の営みを「メンテナンス」と「法務」の両面から視ることができるわけで、これはとても貴重な存在です。

五十嵐 ありがとうございます。私はビルメンテナンス業は社会を維持・再生させる「静脈産業」だと捉えていまして、製造・生産を行う「動脈産業」としっかり連携しながら(廃棄物の回収・再利用なども含めた社会の循環を支える)サスティナビリティ重視のこれからの社会でますます重要性を増す仕事だと考えています。

東京都千代田区二番町に居を構える「となりの法律事務所」のドアプレート。五十嵐氏を代表に弁護士3名で構成されている。企業法務から一般民事・刑事案件まで幅広い法律業務を取り扱っている。また五十嵐氏は知的財産権分野にも造詣が深く、知的財産に着目したビジネスモデルの提案や企業の価値評価、権利保護にも明るい。

川下から川上へ。
静脈産業であるビルメンテナンス業ならではの
社会貢献力を伸ばしたい。

1977(昭和52)年、五十嵐弘悦氏によって創業された東北ビル管財株式会社。ビルメンテナンスから始まった事業は現在、産業廃棄物最終処分、車両整備・板金塗装、再生資源による炭商品製造、造園土木をはじめ、さまざまな事業展開を行う一大グループに成長した。専務取締役である五十嵐丈博氏は、東京と秋田の2拠点で同社の新しい舵取りに取り組んでいる。

―― 弁護士になられた理由は?

五十嵐 ビルメン業の大先輩である父はたいへんな努力家で、優に百を越える資格を取得している傑物なのですが、実は若い頃は医者になりたかったようで、私には医者か弁護士になることを求めていました。ですが私も大学時代はコンピュータに興味があってシステムエンジニアの世界に進みました。しばらくその業界で過ごしているうちに人と向き合う仕事がしたくなってきまして、父の言葉を思い出し「よし、弁護士になろう」と決意したのです。そこで法科大学院に入学し、学びながら司法試験を受けました。28歳のときです。

―― まさか一発合格ですか?

五十嵐 はい、運が良かったのだと思います(笑)。

―― それは凄い!

五十嵐 その後いくつかの事務所で修業し、2015年に自身の法律事務所を東京に開業しました。

―― お父さまも喜んでくれましたか?

五十嵐 はい。私自身もこれで父ときちんと面することができると感じました。ですがその頃、実は父が病を患っていまして、そして父のビルメンテナンス企業が経営的に問題を抱え、すぐに再建に着手しなければならないことが判ったのです。そこで私が東北ビル管財の役員に就任することになり、月の半分は秋田に行って経営問題を整理し、建て直しを進め、経営方針から役員体制、事業内容などをテコ入れしてきました。それらが完了するまでに6年ほどかかりました。非常に大変でしたが、中小企業経営のダイナミクスさを肌で感じることができ多くの学びがありました。おかげさまで私ほど中小企業の経営者目線で現場をイメージできる弁護士は他にいないのではないかと、自信がつきました。
事業承継でお悩みの諸先輩方や、後継者に悩む仲間達とは、ぜひお話する機会をいただきたいと考えています。

―― 東北ビル管財さんは同社を中心に「TBK」というグループを組織し、さまざまな事業会社を運営されていますね。

五十嵐 そのとおりです。清掃や設備管理などのビルメンテナンス事業から警備保障、造園土木、産業廃棄物の最終処分、各種人材派遣まで多様な事業会社で構成されています。
特に最近はSDGsや脱炭素という時代の流れにも対応していけるよう、廃棄物をサスティナブル活用して再生資源化および市場化し、地域社会の資源循環に役立てられるように取組み強化もしています。

―― 先ほど仰ったビルメンは社会の静脈産業だという事業ですね。

五十嵐 ええ。建物のメンテナンスから、地域のメンテナンスへという流れです。静脈産業であるビルメンテナンス業が、衛生管理、廃棄物回収、資源再生など地域社会全体のエコシステムを維持運営する能力は、かなり高いと思うのです。こうした社会を支える川下から動脈産業である川上へ、今後はビルメン側からさまざまな提案を行っていくべきです。

1.東北ビル管財株式会社が管理するTBKリサイクルセンターの様子。持ち込まれたコンクリート廃材、アスファルト廃材、廃木材などを分別し、その後の炭化処理、破砕処理、焼却処理などに回す。

2.同社、TBKリサイクルセンターが行っている産業廃棄物を有効に活かし、再生資源化するためのエコシステムイメージ。こういった考え方は今後さらに社会普及していくはずだ。

3.同社の新しい100%子会社になったエスビルド株式会社の代表者と五十嵐氏の調印記念写真。1人の従業員が複数の行程を行う多能工の育成を行い、デッキプレート、スタッドジベル、アンカーボルト等の施工を主力工事としている。

4.五十嵐氏の弁護士事務所の書棚。ビルメン企業の経営者が法務に強いというのは、入札、M&Aなどに対する上でも極めて強い武器になる。

―― 五十嵐さんの場合は、そこに弁護士ならではの社会を俯瞰で考える視点も加わるわけですね。

五十嵐 東京で法律事務所を営んでいるからこそわかること、できることもあります。そこで得た発想や人脈も地元秋田にさらに惜しみなく注ぎ込んでいきたいと思いますし、そんな新しい潮流づくりのためにも最近、新しい企業をM&Aしました。
「エスビルド」という企業で、鉄骨造りの建物の基礎部分である鉄骨床工事を得意としています。大手ゼネコンの1次下請けをしており、東北6県でナンバー1の実績を持っています。たとえばこういった企業とビルメンテナンス業が組むことで、建設市場の動向がいち早くキャッチできるようになりますし、建設される建物のメンテナンスも早期から計画することで効果的効率的な運用が可能になっていくと考えます。そしてもちろん、建設現場の廃棄物回収~再生資源化の循環も計画できます。 廃業や後継者不在を考える方が多い今こそ、事業承継や代表交代の一手段としてM&Aはぜひ検討してほしいですね。意外と難しくないんです

―― お話を聞いていると、ビルメンは社会を好循環させていくために欠かせない装置なんだと思えてきますね。

五十嵐 コロナ禍以降、テレワークも定着し、離れた場所間のコミュニケーションや、中央と地方の遠隔地を繋いだ働き方も当たり前になりました。
私は地元である大館市の政策アドバイザーも務めているのですが、そんなことから地域活性のアイデアを求められることも多く、やはりそんな時には社会を支えるビルメンの発想と、東京で行っている弁護士業の感性と、2つの眼があることが役に立っています。
今後も秋田と東京の2拠点を往復しながら、ビルメン弁護士ならではの新しい生き方を続けていきたいと思っています。