
人手不足、安全性向上、業務効率化。ビルメンテナンス業界が抱えるさまざまな課題に対し、ドローンは今、新たな解決策として大きな注目を集めています。今回は、2026年5月に開催したセミナー「ドローンで変えるビルメンテナンスの未来」に協力いただいた3社のプロフェッショナルに、現場のリアルな活用事例と業界の未来像について熱く語っていただきました!
登壇者情報
営業統括本部 営業推進部 部長
上瀧 秀貴 氏
山崎産業にて、ビルメンテナンス業界を中心に業務用消耗品の提案や、清掃現場の効率化・省人化に向けたソリューション提案を担当。効率化を目指した清掃資機材の開発やIoT等の新技術を活用した現場改善にも携わり、ビルメンテナンス事業者の生産性向上や人手不足対策を支援している。
代表取締役
府川 雅彦 氏
代表取締役
岩岡 真吾 氏
Q1 今、ビルメン会社は何に困っている?
最近、ビルメン会社から寄せられる相談やニーズにはどのようなものがありますか?
【課題①】資材の工夫だけでは限界。業界全体で進む「効率化」の模索
司会:上瀧様、まずは業界全体が今直面している一番の課題について教えてください。
上瀧:やはり業界にとって最も重要なテーマは「効率化」だと考えています。人手不足が進むなか、限られた人員や資源を最大限に活用するためには、作業効率を高めていくしかありません。
当社は清掃用品メーカーでもありますので、これまでは資材を中心に効率化できるような商品を作ってきました。ただ、それだけではやはり限界があると感じています。
周囲を見渡しても、いわゆるロボットなどに置き換えることで効率を上げているケースが増えていて、それがまず一つ大きな変化だと思っています。
我々もその中で、IoTセンサーを活用した取り組みを進めています。例えば、ゴミ箱にセンサーを付けて回収効率を上げたり、トイレにセンサーを付けてメンテナンス効率を上げたりといったことです。
また、ビルメンテナンス企業のお客様からは、「他にもっと効率よくできることはないのか」というお問い合わせやご相談をいただく機会も年々増えています。
こうした流れのなかで、今回のテーマであるドローンについても、新たな効率化の手段としてご提案できる可能性があると考えています。結局のところ、業界のさまざまな課題を解決するうえでのキーワードは、やはり「効率化」ではないでしょうか。

【課題②】足場代の高騰で高まる「コスト・安全・工期」改善へのニーズ
司会:外壁点検の現場では、どのような相談が多いのでしょうか。
府川:弊社の案件ではマンション関連が最も多いのですが、そこで共通する課題として挙がるのがコストの問題です。修繕積立金が不足しているケースも多く、大規模修繕をできるだけ低コストで実施したいというニーズがあります。足場代の上昇や資材価格の高騰もあり、コストに対する意識は非常に高いですね。
そうしたなかで弊社へのご相談で特に多いのが、10年ごとに実施が求められる法定点検です。マンションを含む特定建築物では、いわゆる12条点検に伴い外壁の全面調査が必要となるため、外壁調査のご依頼を数多くいただいています。
ただ、従来のように足場を組んで調査を行うと、どうしても費用がかかります。そのため、「なるべく金額を抑えたい」というご要望は非常に多いですね。
加えて、調査を行う事業者側からしても、安全性を高めたいという思いがあります。人が高所に登らなくていいというのは大きいですし、工期を短縮したいというお客様も多いですね。
ドローンの場合、タワーマンションでも調査自体は長くても2日ほどで終わります。足場などの仮設工事も必要ありませんので、「コスト、安全性、工期」、このあたりが導入理由として大きいのかなと思います。

【課題③】デザイン建築の増加と「アクセスしづらい高所」の清掃
司会:外壁清掃の現場では、どのような相談が多いのでしょうか。
岩岡:私たちの場合、特に人がどうしても届かない場所や、届いたとしても危険が伴う場所の清掃についてのご相談が多いです。
主には高い場所の汚れですね。それに加えて、高さはそれほどなくても建物の構造が複雑なケースもあります。例えば窓が奥まっている建物や、美術館のように凹凸が多くて複雑な形状の建物です。デザイン性を優先して造られていて、「これ、どうやって洗うの?」というような建物も結構あります。
また、築年数が浅い建物でも、半年から1年くらいで汚れが目立ってくることがあります。特にデザイン性の高い建物は汚れが見えやすいので、気にされる方も多いですね。
そういった中で、人が行けない場所や高い場所、人がアクセスしにくい場所をどうやってきれいにするかというのが、大きな悩みになっています。
あとは安全面ですね。従来の方法だと足場を組む必要がありますし、どうしてもコストもかかります。もちろん費用の問題もあるのですが、足場を設置すると建物全体が覆われてしまうため、その期間は施設の利用や営業に制約が生じることがあります。これは点検の話にも通じますが、単純な工事費だけでは測れない影響があります。
最近は、そうした「見えないコスト」にも注目されるお客様が増えています。例えば、建物を通常どおり利用できなくなることによる機会損失や、利用者の利便性低下、事業活動への影響などです。
建物を普段どおり使いながら、安全に、そしてできるだけ負担なく清掃や点検を行いたい。そうしたニーズは年々高まっていると感じています。

Q2 すでに起きている変化と今後の変化
今、実際にドローンへ置き換わり始めているビルメン業務には、どんなものがありますか?
また、5年後ビルメンの仕事はどのように変わっていくと思いますか?
【変化①】清掃ロボットの普及期と重なるドローン活用の広がり
司会:今、実際にドローンへ置き換わり始めているビルメン業務には、どんなものがありますか?
上瀧:ドローンに置き換わり始めている業務というと、今、岩岡さんや府川さんもおっしゃっていたように、点検や洗浄といった分野ですね。
特に洗浄については、少しずつ認知され始めていると感じています。まだ本当に立ち上がりのフェーズかもしれませんが、確実に変わりつつありますし、非常に興味を持たれている方も多いです。
そういう意味では、初期の清掃ロボットの普及段階に近いのかなと思っています。みんな興味はある。ただ、ロボットも今のように当たり前に使われるようになるまで、おそらく10年近くかかったのではないでしょうか。
一方で、ドローンはそれよりも早く普及していくような気がしています。目に見えて分かりやすい技術ですし、導入効果もイメージしやすいので、今後さらに普及が進んでいくのではないかと思っています。
5年後という視点でいうと、本当に5年後なのかどうかは分からないのですが、私が期待しているのはやはり「データの活用」です。
先ほど府川さんもおっしゃっていましたが、蓄積したデータを活用しながら、それを自動で処理していくような仕組みですね。最近でいうフィジカルAIのような技術とドローンが連携していく世界は、十分あり得るのではないかと思っています。
もう一つは、その蓄積されたデータを基に、「建物管理そのものがもっと効率化されていくこと」です。
例えば点検の分野であれば、日々の劣化状況や経年変化のデータが蓄積されていきます。そうした情報がしっかり残ることで、「次はどこを重点的に点検すべきか」「どこを優先的に修繕すべきか」といった判断がしやすくなると思います。
そうなれば、作業計画やスケジュールも組み立てやすくなり、結果としてより効率的な建物管理につながるのではないかと考えています。
5年後かどうかは分かりませんが、業界はそうした方向へ向かっていくのではないでしょうか。
【変化②】法改正と社会的ニーズが後押ししたドローン普及の転換点
司会:外壁調査の分野では、どのような背景やきっかけがあって浸透してきたのでしょうか。
府川:外壁調査の観点でいうと、いくつかあるんですけれども、弊社は2017年創業で、2019年頃から外壁調査を始めて、2020年に解析会社を買収して今に至る、という流れでずっとやってきています。
振り返ると、最初は本当に話を聞いてもらえなかったんですよね。そもそも「ドローンって何?」というところから説明しなければいけなくて、一件一件説明を重ねながら進めてきました。
その中で変化があったかというと、やはりありました。ただ、新しい技術が業界に入ってインフラ化していくためには、技術そのものだけではなく、「法改正」も必要なんです。
ドローン業界でいうと航空法が注目されがちなんですが、私たちにとって一番大きかったのは、2022年4月の「建築基準法の一部改正」でした。
先ほどお話しした10年に一度の法定点検、いわゆる12条点検では、もともと外壁全面調査は、打診調査などで行うことが多かったのですが、ドローンを用いた赤外線調査についても、有効性が確認できれば活用可能であることが明確になりました。
正直、私たちとしては、ドローンに関する法改正よりも、建築基準法上でドローン活用が明確に位置付けられたことの方が大きかったです。それまではどちらかというとグレーな立ち位置で、「本当に使って大丈夫なの?」という雰囲気があったんですが、それ以降は大手管理会社やゼネコンからも、「じゃあドローンを使ってみようか」という相談が増えてきました。
そういう意味では、制度が変わることで一気に普及が進むタイミングというのは、今後もあるんじゃないかと思っています。
あと、私たちが行っているのは、基本的には目視調査と赤外線調査なんですね。赤外線カメラ自体は昔からある技術で、別に新しいものではありません。
ただ、以前は「赤外線調査は精度が出ない」という認識が、ビルメンテナンスや不動産、建築業界の中に一定数ありました。なぜかというと、中高層建物を地上から撮影すると、どうしても距離や角度にばらつきが出てしまうからです。
赤外線調査というのは、適切な距離と角度で外壁面を撮影して初めて精度が出ます。さらに、日照条件も重要です。
例えば、タイルが浮いている場合、浮いた部分には空気層ができるので、太陽熱がそこに溜まりやすくなります。その温度差を赤外線カメラで検知しているわけです。ですから、撮影条件が適切であれば精度は出るんです。
ただ、これまではその条件を保つことが難しかった。
そこにドローンが出てきたことで、中層階でも高層階でも、同じ距離、同じ角度で撮影できるようになりました。つまり、赤外線カメラが本来持っていた性能を、きちんと引き出せるようになったわけです。
なので、ドローンそのものが何かを診断しているというよりは、既存技術を活かせる環境を作ってくれたというイメージの方が近いですね。
その結果、「赤外線では精度が出ないよね」と言われていたものが、少しずつ「使えるよね」という評価に変わってきています。
もう一つ、私たちが今後より訴求していきたいのが、「データが残る」という価値です。
従来の打診調査というのは、人が打診棒で壁を叩いて音を確認し、その結果を図面に落とし込んでいくものでした。今のドローンによる赤外線調査は、その作業の代替という側面もあるんですが、実はそれだけじゃないんです。
ドローン調査ではデータが残ります。経年変化を含めて記録として蓄積できるので、本来はこちらのほうが大きな価値だと思っています。
ただ、現状ではまだそこまで評価されているわけではなくて、まずは法定点検のニーズでお仕事をいただいている状況です。中長期的には、このデータ活用の価値をもっと広げていきたいと考えています。
一方で、僕ら自身はドローンを過信しないようにしています。ドローンありきではなくて、必要に応じてロープアクセスによる打診調査も行います。
向いている場所はドローンを使うし、向いていない場所は別の手法を使う。その方がお客様にとってもいいと思っています。
また、普及のきっかけという意味では、法改正だけではなく、報道の影響も大きいですね。
例えば戸建て住宅の業界では、ここ数年で悪質なリフォーム業者の問題が大きく報道されました。屋根に上って自ら破損させ、それを撮影して修理を提案するようなケースですね。
そうした報道を受けて、行政も「安易に屋根へ上らせないように」と注意喚起を行うようになりました。実際、リフォーム関連のプラットフォーム企業さんでは、「屋根に上らない業者を紹介してほしい」という問い合わせがかなり増えていると聞いています。
そうなると、屋根の状況を確認する手段としてドローンのニーズが高まります。
私たちがよくお伝えしているのは、「全部をドローンに変える必要はない」ということです。
これはビルメンテナンス業界でも同じで、打診調査をすべてドローンに置き換える必要はありません。ただ、必要なときにドローンを使える体制は、これからのスタンダードになっていくと思います。
法改正や社会的な出来事、報道などをきっかけに、また一段と普及が進む。そういう流れを繰り返しながら広がっていくのではないかと思っています。
上瀧:ちなみに、打診調査もやられているというお話でしたが、ロープでやるんですか?
府川:ロープです。ロープアクセスですね。ロープでぶら下がりながら打診調査を行っています。
僕はやらないんですけど(笑)。高所恐怖症なので。
ただ、実際はドローンとロープアクセスを使い分けています。
例えば建物の一面が高速道路に面していてドローンが飛ばせない場合や、北面で日照条件が悪く赤外線調査に向かない場合はロープで対応します。一方で、可能な部分はドローンを使う、といった形ですね。
要は、適材適所です。全部ドローンでもないし、全部ロープでもない。
その建物ごとに、一番良い方法を組み合わせるという考え方ですね。
ただ、ロープアクセスは本当に怖いです(笑)。誰でもできるわけではないですね。
上瀧:最初の一歩目が怖いですよね。
府川:いや、本当に怖いですよ(笑)。
社員から「やりたいです」と言われた時も、「本当に?」と思いました(笑)。
最初は協力会社さんにお願いしていたんですが、そこで教わりながら技術を身につけて、今では社内でも対応できるようになりました。
改めて考えると、よくやるなと思いますね(笑)。
そこはしっかり手当も出しています。そうじゃないとやってくれないですから(笑)。
【変化③】「ドローンで解決できないか」 問い合わせ主導へ変わる市場
司会:清掃の分野においても、お客様の認知や捉え方に大きな変化が出てきていますか?
岩岡:そうですね。当社も3年ほど前に「ドローンによる高所や手の届かない場所の洗浄は、これから必ず需要が出てくる」と考えて事業をスタートしました。ただ、正直なところ、当時はほとんど反応がありませんでした。
それが今では大きく変わってきています。
今年の3月には、広島駅直結のホテルで外壁洗浄を実施したのですが、そこでは鳥のフンが外壁に付着していて、それが原因で最大半年近く販売停止となっていた客室があるという切実な課題がありました。
「何とか取れないか」というご相談をいただき、ドローンを活用して対応したのですが、初めての取り組みということもあってメディアにも取り上げていただきました。それをきっかけに、「こういうことができるんだ」と認知されるようになり、お問い合わせもかなり増えました。
以前は、こちらから「ドローンならこんなことができます」と提案することが中心でした。しかし最近は状況が変わってきています。
例えば競技場や大型スタジアムの管理者の方から、「このサビを何とかしたい」「従来の方法では対応が難しい」といったご相談をいただくことがあります。その際、お客様自身が「こういうケースはドローンを活用した方がいいのではないか」と考えた上でお問い合わせくださるんです。
以前のように私たちが可能性を説明する段階から、お客様自身が課題解決の手段としてドローンを認識し、相談していただける段階へと移りつつあると感じています。
それだけ、ドローンという選択肢が皆さんの中で認知されてきたということだと思います。そこは、この数年での大きな変化ですね。
5年後という視点でいうと、ドローンにも得意なことと不得意なことがあるので、すべてが置き換わるとは思っていません。
ただ、高所作業や人の安全に関わる部分など、ドローンの方が効率的で安全な領域は確実にあります。
ですので、ビルメンテナンス会社さんが従来の方法とドローンをうまく使い分けながら、適材適所で活用していく。そんな時代になっていたらいいなと思っています。
上瀧:この間の東京ビルメンテナンス協会の展示会でもご一緒させていただきましたけれども、注目度は高かったですよね。
飛行体験があったというのもあると思いますが、それだけでもかなり興味を持っていただいていた印象があります。
実際に飛行体験をしていただいて、「こういうことができますよ」とお話しすると、「これもできるのか」「あれもできるのか」「こういう場所でも飛ばせるのか」といった反応がすごく多かったですね。
もちろん、全部ができるわけではないですし、難しいケースもあります。
ただ、先ほど岩岡さんがおっしゃったように、置き換えられる部分と置き換えられない部分を見極めながら提案していくという考え方が、以前より受け入れられるようになってきたのではないかと思います。

【次回予告】
ドローンを使える会社が、これからの現場をリードする。
ドローンを「使う会社」と「使わない会社」で、今後どんな差が生まれるのか。
受注できる仕事の幅、安全性、提案力、そして人手不足時代の企業の強さについて、現場目線で考えます。
取材協力
山崎産業株式会社
清掃用品・衛生用品・清掃機器などを幅広く手掛ける総合環境用品メーカー。「CONDOR」ブランドを展開し、ビルメンテナンスをはじめとする施設管理の現場を支えている。近年は、IoTなどの技術も取り入れ、清掃現場の省人化・業務効率化にも取り組んでいる。清掃用品・清掃機器、衛生用品、施設用品、清掃ロボット、IoTを活用した現場支援などを展開している。
株式会社ドローン・フロンティア
建築物の点検・調査を中心に、ドローンを活用した建物管理・点検サービスを展開するドローン専門企業。外壁や屋根の調査をはじめ、高所における建物調査の効率化を支援している。また、ドローンの教育や企業への導入支援にも取り組んでいる。赤外線外壁調査、屋根調査、屋根はかる君、屋内点検、ドローンスクール、ドローン導入コンサルティングなどを展開している。
株式会社TRIPLE7
元国際線パイロットの安全管理の知見とドローンの実務経験を活かし、外壁洗浄や防犯・警備などのドローンソリューションを展開する企業。あわせて「NAPAドローンアカデミー」を運営し、一等・二等無人航空機操縦士の国家資格講習や高圧洗浄などの実務講習を通じて、操縦者の育成やドローンの導入・安全運用の支援に取り組んでいる。
取材場所
山崎産業株式会社 東京総合センタービル(東京都江東区新砂)
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