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価格競争から脱却!ビルオーナーに選ばれる「付加価値戦略」

2026/01/23 09:59

人材不足を背景とした最低賃金の上昇、エネルギーコストの高騰など、ビルメンテナンス業界を取り巻く環境は厳しさを増しています。にもかかわらず、現場では依然として「他社より安く」という価格競争が激化しているのが実情です。ビルオーナーがコスト削減を優先して安価な業者へ依頼し、それがさらなる単価下落を招くという「悪循環」に陥ってしまっています。

この状況を打破するにはどうすればよいのでしょうか。本記事では、ビルメンテナンス企業が価格競争から脱却し、ビルオーナーに「資産価値を高めるパートナー」として選ばれるための、具体的な戦略と実践ノウハウを解説します。


価格だけで勝負しない「選ばれる会社」になる方法

まずは、なぜビルメンテナンス業界で不毛な価格競争が起きるのか、その構造的な原因を紹介しながら、そこから抜け出すために不可欠な「価値の再定義」について解説します。

なぜ価格競争は避けられないのか?業界の現状を再認識する

ビルメンテナンス業界において価格競争が避けられない背景には、業界特有の構造的な要因があります。
1つめは、品質の違いが見えにくいことです。メンテナンスは「清掃されていて当たり前」「設備が動いていて当然」とみなされやすく、プロとしての品質差が顧客に見えにくい傾向があります。
2つめは、仕様書に基づく発注形式であることです。仕様書によって作業頻度や回数が決まっていることが一般的で、提案の余地が少ないため、結果的に差別化要因が価格のみになりがちです。
価格競争ありきの構造から脱却するには、単なる「作業を請け負う業者」から、オーナーの「経営課題を解決するパートナー」へと、立ち位置を根本から変える戦略が必要です。

・「お客様にとっての価値」を再定義する重要性

多くのビルオーナーは、建物の老朽化、空室リスク、大規模修繕コストといった経営課題に直面しています。ビルオーナーが本当に求めているのは目先の安さではなく、建物の資産価値を維持、向上させることです。
そのためビルメンテナンスサービスを提供する企業は、作業内容や作業回数を売るのではなく、オーナーが求める「資産価値の保全」を提供する、という価値の定義を転換する必要があります。


●ビルオーナーが本当に「投資したい」価値の分析

ビルメンテナンス費用は単なる維持管理コストではなく、事業利益を生むための「投資」です。ここではオーナーの経営目標に資する目標の設定方法、またオーナーの潜在的な課題を分析する方法を解説します。

・オーナーの事業計画に貢献する目標設定の仕方

オーナーの最終的な目標は、「収益の最大化」と「資産価値の維持」にあります。しかし、床のワックスがけやフィルター清掃といった現場での作業がどうオーナーの収益につながるのか、直感的にはイメージしにくいものです。
そこで、このギャップを埋め、オーナーと同じ目線で目標を設定するための方法を解説します。

1.オーナーの目標を現場の行動目標に落とし込む
次の表は「ロジックツリー」というフレームワークを用いて、オーナーの目標をビルメンテナンス作業の行動目標まで落とし込んだ例です。

オーナーの目標 目標達成に必要な要素 戦略目標 メンテナンス作業の行動目標(例)
収益の最大化 1.収益の増加
(空室解消・賃料維持)
①テナント満足度の向上 ●美観・快適性維持
・適正な頻度でのエントランスやトイレの清掃
・臭気対策や消耗品の管理
②安全・安心の提供 ●災害時の事業継続支援
・非常用電源設備の確実な点検・動作確認
・災害時のトイレ衛生維持対策
2.支出の削減 ①ランニングコストの削減 ●省エネ運用
・空調フィルター清掃による熱効率削減
・LED化やデマンド監視による電気代抑制
②LCC(ライフサイクルコスト)の低減 ●予防保全
・設備の振動測定による故障の早期発見
・突発的な高額修理の回避対策

オーナーの目標をメンテナンス作業の行動目標まで落とし込むことで、日常的に行う清掃作業が、収益の最大化につながることを論理的に説明できます。
その結果、オーナーにとって清掃は単なる作業ではなく、収益を最大化するための投資というビジネス上の意味を持ちます。

2. 定性的な作業(頑張り)を定量的な目標(KPI)へ
現場での行動目標が決まったら、次はその達成基準を数値化しオーナーと「どのレベルを目指すか」を目標設定します。その際、オーナーの利益に直結する数値を共通のゴールとして設定することが重要です。
例えば「美観・衛生」なら、きれいにするという主観的な目標ではなく「光沢度○○以上を維持する」「ATP量(汚れ)を基準値以下に保つ」といった具体的な数値を設定します。また「設備管理」なら「前年同月比で電力使用量を○%削減する」「停止時間を〇分にする」といった数値が考えられます。
その結果、作業後の報告も単に「作業完了しました」ではなく、「目標数値を達成しました」という成果の共有ができ、事業パートナーとしての信頼関係を築けます。

・オーナー自身が気づいていない「潜在的な課題」の見つけ方

すべてのオーナーが、自身のビルの課題を正確に把握できているわけではありません。「古くなってきてなんとなく心配」といった漠然とした不安を抱えているオーナーも多いのです。
ここでは潜在的な課題を発掘し、オーナーへ提案するための方法を紹介します。

1.リスクを顕在化させる
まずは「SPIN話法」というフレームワークを用いて、潜在的な課題を浮き彫りにします。
SPIN話法とは、Situation(状況質問)、Problem(問題質問)、Implication(示唆質問)、Need-payoff(解決質問)の4つの質問を取り入れることで、顧客に問題の深刻さを認識させるテクニックです。
例えば、老朽化した空調機を抱えるオーナーに対して、以下のように質問します。

(1)Situation(状況質問)
「空調設備のメンテナンスは現在どのような頻度で行われていますか?設置から何年経過していますか?」

(2)Problem(問題質問)
「最近、テナント様から『効きが悪い』といったお問い合わせや、故障の頻度は増えていませんか?」

(3)Implication(示唆質問)
「もし真夏にこの空調が故障し、部品の供給停止などで1週間復旧できなかった場合、テナント様の業務や信頼関係にどのような影響が出るとお考えですか?」

(4)Need-payoff(解決質問)
「もし、故障の予兆を事前に検知し、計画的に部品交換を行うことで、突発的な停止リスクを限りなくゼロにできるプランがあれば、お役に立てますか?」

このように、単に「古いから交換しましょう」と提案するのではなく、放置した場合の経営リスクを具体的にイメージしてもらうことで、提案の説得力が飛躍的に高まります。

2.3C分析で「選ばれない理由」を指摘する
自社のビルのことは知っていても、近隣の競合ビルや市場の変化には疎いオーナーもいます。このような場合、「3C分析」を用いて選ばれない理由を指摘できます。

3C分析とは、Customer(市場・顧客)・Competitor(競合)・Company(自社)の3つのCを分析することで、企業を取り巻く環境を明らかにし、事業課題や経営戦略を導き出すフレームワークです。

3C 分析 指摘事項(例)
Customer(市場・顧客) テナント企業の市場トレンドとして、入居ビルの選定時に
「感染症対策」や「非接触」などの衛生セキュリティ基準を
厳しくチェックするよう変化してきています
Competitor(競合) 近隣の競合ビルは、共用部の照明に「高機能LED」や
「人感センサー」といった、省エネと美観を両立する
設備管理を取り入れています
Company(自社) 御社のビルは管理コストが安いですが、エントランスの照度が低く、
入居時の印象で損をしている可能性があります

このように、競合や市場と比較しながら客観的な視点を提供することで、オーナーが気づいていない競争力の低下などの課題を浮き彫りにできます。


●サービスの質を「見える化」する提案・報告戦略

続いて、ビルメンテナンス業務の見えにくい作業・努力を可視化し、オーナーからの信頼を得るための具体的な報告、提案手法を解説します。

・「作業報告書」を「資産価値向上レポート」へ進化させる

従来のビルメンテナンスの報告書は、実施した作業を羅列し「異常なし」と締めくくるだけの「作業点検記録」になりがちでした。しかしオーナーが求めているのは、「現在の環境や設備に問題がないか」「今後どのような経営上のリスクが考えられるか」という安心材料と未来予測です。これからの報告書は、オーナーの経営判断を支援する「資産価値向上レポート」へと進化させる必要があります。
ここでは例として3つのポイントを説明します。

1.感覚ではなく数値で品質を証明する
「清掃が完了しました、点検が完了しております」という定性的な報告では、仕事の価値は伝わりません。以下のように、客観的なデータを用いて作業品質を見える化します。

・清掃品質の数値化(ATP・光沢度)
トイレやドアノブの除菌清掃の効果は目に見えません。そこでATPふき取り検査を行い、汚染物質(ATP量)を数値(RLU値)で測定します。「清掃前は3,000RLU(要注意)でしたが、清掃後は150RLU(安全圏)まで低下しました」と表やグラフで示せば、業務の価値が一目瞭然となります。
また床ワックスの仕上がりも「光沢計」で数値を測定し、年間推移をグラフ化することで、美観維持の成果を客観的に説明できます。

・設備状態のトレンド管理
設備の点検データ(電流値、振動値、温度など)を単発の数値として報告するのではなく、時系列のグラフとして提示します。そのうえで、例えば「基準値内ですが、先月に比べてポンプの振動値が微増傾向にあります。3ヶ月後の点検で部品交換を検討しましょう」といった報告書を作成すると、突発的な故障を防ぐ予知保全として高く評価されます。

2. ビジュアル重視とDXツールの活用
多忙なオーナーや高齢のオーナーになると、文字だけの報告書を熟読しないこともあります。そのため写真を活用し、見やすく説得力のあるレポートを作成することが大切です。
例えば、歩行頻度の高いエレベーターホールの床面を毎月同じアングルで定点撮影し、経年変化や清掃効果を可視化します。「半年前よりこれだけ光沢が減少しているため、来月は定期清掃に加え、光沢を復元する作業が必要です」といった提案がしやすくなります。

3. 「資産価値向上レポート」の構成
資産価値の向上まで踏み込んだ報告書のフォーマットとして、以下の構成を取り入れることをおすすめします。

構成 内容
サマリー 冒頭に、今月の管理状態の総括(A〜E評価など)、特記事項、
緊急の提案を1枚でまとめます
目標(KPI)数値の推移 光熱費、エネルギー効率、美観数値、クレーム数などの月次推移を
グラフで表示します
改善提案 作業中に気づいた点と、それに対する具体的な改善提案
(概算見積もり含む)を記載します
作業詳細データ 従来の点検記録や写真台帳は、あくまでエビデンスとして
巻末に添付します

このような構成を取り入れることで、毎月の報告書は単なる業務完了の確認書類から、オーナーに対する「自社の貢献度を証明するプレゼンテーション資料」に変わります。

・競合にはない「プラスアルファの提案」を生み出す発想法

仕様書に書かれた業務をこなすだけでは、競合他社との差別化は困難です。しかし「競合にはない新しいアイデアを提案してほしい」と言われても、すぐに出るものではありません。
ここでは、競合にはないプラスアルファの提案を生み出すための具体的な切り口や発想法を2つ紹介します。

1.予防保全の提案を変える(TBMからCBMへ)

多くのオーナーは、過剰な部品交換によるコスト増を懸念しています。そこで、一定の期間で部品交換などを行う「時間基準保全(TBM)」から、実際の劣化状況に合わせて交換する「状態基準保全(CBM)」への移行を提案します。
例えば、「メーカー推奨では1年ごとの交換ですが、振動データを監視することで実際の劣化状況に合わせた交換が可能です。これにより〇年間で約〇%の修繕コストの削減が見込めます」といった提案です。
このような切り口を変えた提案は、コスト削減だけでなくオーナーの信頼獲得につながります。

2.「SCAMPER法」によるアイデアの開発
「SCAMPER法」とは、既存の業務を7つの視点で見直し・検討することで、新しいアイデアや価値を生み出す手法です。
以下、それぞれの視点でビルメンテナンス業務の改善アイデア例をみてみましょう。

(1)Substitute(代用する)
共用部の蛍光灯を「人感センサー付きLED」に代用できないか?
→電気代の削減に加え、電球交換の手間(人件費)も削減され、LCC(ライフサイクルコスト)の低減に貢献します。

(2)Combine(組み合わせる)
清掃スタッフに簡易点検のスキルを教育し、日常清掃と同時に「電球切れ」「水漏れ」「異音」のチェックを行えないか?
→毎日現場を見る目を増やすことで、月1回の定期点検では拾いきれない不具合の早期発見につながります。

(3)Adapt(適応させる)
シェアリングエコノミーの「物品シェア」の概念をオフィスビルに適応できないか?
→突然の雨に備えた「シェア傘(無料貸し出し傘)」や、自転車の空気入れ・台車の貸し出しなどの共有ツールのコーナーを設置し、テナントや利用者の利便性を高めます。

(4)Modify(修正・変更する)
スタッフのユニフォームを、作業着から明るいポロシャツや制服に変更できないか?
→スタッフの意識が変わるだけでなく、来訪者に「管理が行き届いている清潔なビル」という安心感と好印象を与えます。

(5)Put to other uses(他の用途に転用する)
回収したゴミを捨てるだけでなく、分別状況の分析や資源リサイクルに転用できないか?
→ゴミの排出傾向を分析してオーナーに報告することで、ゴミ処理費用の削減提案や、ビルのリサイクル率向上(SDGs貢献)という付加価値に変えます。

(6)Eliminate(除去する)
人通りの少ない裏廊下や倉庫など、利用頻度の低いエリアの毎日清掃を除去・削減できないか?
→汚れにくい場所への過剰な清掃時間をカットし、その分をエントランスやトイレなどの重要エリアの品質向上に再配分することで、コストを変えずにビルの環境品質を高めます。

(7)Reverse(逆転する)
クレームが来てから謝罪・対応する受け身のプロセスを逆転できないか?
→定期的に「清掃・空調に関する困りごとアンケート」をテナントへ配布し、オーナーへクレームを入れるほどではないが我慢している不満を先回りで聞き出し、即座に解消します。

このようなフレームワークを使い、現場のスタッフを交えてミーティングを行うことで、自社独自の「プラスアルファの提案」が見つかるはずです。


●パートナーシップ強化がもたらす継続契約と単価向上

本記事では、ビルメンテナンス企業が価格競争から抜け出し、ビルオーナーに選ばれ続けるための「付加価値戦略」について解説しました。重要なことは、オーナーの資産価値向上に深くコミットし、独自のデータやノウハウを蓄積することです。これによりオーナーにとって「他社へ切り替えるリスク」が高まり、強固なパートナーシップが築かれます。単に安いだけの業者は代替が効きますが、自社ビルの特徴を知り尽くし経営課題にまで踏み込んだ提案ができる業者は、オーナーにとって貴重な存在です。
オーナーにとって代替不可能な存在になることこそが、価格競争に巻き込まれないための鍵であり、厳しい市場環境を生き抜くための生存戦略となるでしょう。



■執筆者
吉満博
宅地建物取引士・ファイナンシャルプランナー・住宅ローンアドバイザー

不動産の購入から売却まで出口戦略、資産性を踏まえた長期の視点で不動産コンサルティングサービスを提供。また、これまでの不動産売買・建築設計の実務経験やサイト運営を踏まえた記事執筆・情報発信を行う