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適切な指導を妨げないハラスメント対策。健全な現場を作るヒント

2026/06/26 11:00

「パワハラと言われるのが怖くて指導ができない」と悩む管理職の方が増えています。適切な指導は、仕事の効率化を進め、部下を成長させるものです。では、なぜ指導をためらうのか、その理由はパワハラだと訴えられるリスクを恐れるからでしょう。

しかし、正当な指導であれば、パワハラではありません。そこで、パワハラにならない指導とは、どのような言動で行えばよいのか、具体的に説明します。

ハラスメントの公的定義と対策義務化の背景

職場におけるパワハラ防止対策を企業に義務付ける改正法が令和2年6月から施行(中小企業は令和4年4月から)され、現在では、セクハラ防止・マタハラ防止対策も企業に義務付けられています。

厚生労働省は3つの要素で定義しており、これらを全て満たすものをパワハラとしています。

①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって

②業務上必要かつ相当な範囲をこえたものにより

③その雇用する労働者の就業環境が害されるもの

このパワハラの要素のうち、一番重要なものは、③です。労働者の就業環境が害されるとは、当該言動により身体的または精神的に苦痛を与えられ能力の発揮に重大な悪影響を生じることを指し、この判断には基準があります。それが「平均的な労働者の感じ方」です。つまり、受けた労働者がどう感じるかではなく、他の多くの労働者がどう感じるかがパワハラ判断の基準なのです。

実は、この基準があるため、パワハラと訴えられたケースの中にも「パワハラには該当しない(=その人は不快に感じるかもしれないが、多くの人は感じない)」ケースが多々あるのです。セクハラは受けた本人が不快と思えばセクハラになる可能性が高いですが、「パワハラは受けた本人が不快だとしてもパワハラにならないこともある」ということです。ここが最重要ポイントです。

出典:厚生労働省「職場におけるハラスメント対策パンフレット」

厚労省の調査によると2023年度の都道府県労働局におけるパワハラの相談件数が前年に続き6万件を超えるなど高水準で推移しており、ハラスメント対策は喫緊の課題となっています。自社のハラスメント対策について今一度考えてみるよい機会ではないでしょうか?

出典:厚生労働省「「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します」

現場リーダーが直面する指導の難しさ

当然のことですが、指導がすべてパワハラになるわけではありません。また、部下との信頼関係やコミュニケーションにより同じ指導であってもパワハラになるケースとならないケースがあります。つまり、指導とパワハラの境界線のあいまいさが現場を混乱させています。

たとえば、Aさんにとっては○○の言動がパワハラになるものの、Bさんにとっては何でもないというように人によって受け取り方や考え方が異なるため、境界線を引くことが難しいのが現状です。

ただし、前述したパワハラの定義の中での重要ポイントである「その人がどう受けとめたかではなく、他の多くの人がどう受けとめるか」が基準となります。Aさんがパワハラだと感じても他の多くの人が不快と感じなければパワハラではありません。とはいえ、Aさんが不快に思うような言動は極力避けるなど、適切な配慮は必要です。

指導とパワハラの境界は非常に曖昧になりがちです。だからこそ、相手に対して指導とは関係のない不快になる言葉(バカ、能力なし、など)を言わないように上司自身が部下に対して配慮することが重要と言えるでしょう。

パワハラを恐れて指導を怠ることこそ、「きちんと指導してもらいたい」と優秀な部下のモチベーションを下げ、離職を招くことにも繋がりかねないため、注意が必要です。

自信を持って正しい指導を行うための3つのポイント

部下に対しての指導は、管理職の仕事のひとつです。そこで、部下に対して自信をもって指導するための3つのポイントをご紹介します。

上司と部下の指導における権利と義務をお互いに認識する

上司には、部下を指導するという権利があります。そして部下には、上司の指導に従うという義務があります。つまり、上司は指導することが権利ですので、どんどん指導すべきなのです。その上司の指導に部下は粛々と従うのが、上司と部下の関係です。しかし、上司の指導には、部下にとって「おかしい」「よくわからない」というものもあるでしょう。

それでも黙って指導に従わなければならないのでしょうか?決してそうではありません。その指導が「おかしい」「よくわからない」と感じる場合には、部下には質問をする権利があるのです。そして、上司にはその問いにきちんと答える義務があります。「自分で考えろ」「それくらいわからないのか」と突き放してしまうと、パワハラになりかねません。

部下からの問いに対しては、上司の指導を部下自身が理解できた時にはじめて、本当に「答えた」ことになります。面倒がらずに、真摯に向き合う姿勢が大切です。

指導は具体的に行う

「しっかりやれ」「ちゃんとやれ」というような指導をしていませんか?このような抽象的で「何をすればよいのか分からない指導」は、パワハラと捉えられる可能性があります。なぜなら、具体的な指示がないままでは部下は動けず、その結果「なぜやっていないんだ」とさらに叱責されるという悪循環を生んでしまうからです。

指導は、部下がすぐに行動に移せるように具体的に指示することが肝要です。すぐに行動に移す結果、仕事の効率化も図れます。「しっかりやれ」と言うのではなく「仕事で分からないことがあればすぐに聞いて間違いなくやりなさい」と言われると「分からないことはすぐに聞けばいいんだ」と部下の安心につながり、信頼関係も築くことができます。

気持ちを伝える

自分の気持ちを部下に伝えることが苦手な方が多いようです。言葉が足りないと、部下からは「よく怒る嫌な上司」と誤解されてしまうことも少なくありません。たとえば、仕事が急に増えて困っているときに「残業をしろ!」と言うと残業の強要でパワハラとなります。しかし「仕事が増えて困っている、残業をしてくれると助かる」と言えば部下としても上司が困っているのであれば助けてあげようと思うでしょう。

また、きつい指導を繰り返す上司を「パワハラ上司」と呼んで部下は敬遠する傾向にありますが、実はこの指導には上司の部下に対する深い愛情が隠れているケースが多いのです。部下に早く一人前になってほしい、早くスキルを身に付けて欲しいと思うがゆえに、指導がきつくなってしまうのです。確かにやさしい指導であれば、パワハラにはならず、上司も部下も楽に仕事をすることができますが、部下の仕事の上達は難しくなるでしょう。それが本人の為にならないことは明らかです。

上司としては、なぜ指導がきつくなるのかをきちんと部下に話をする必要があります。「言わなくてもわかってくれるだろう」と期待せず、きちんと言葉にして気持ちを伝えることが重要です。

ビルメンテナンス現場で特に注意したいポイント

ビルメンテナンス現場において、注意すべきハラスメントに関するポイントは以下の4つです。

  1. セクハラは性別の組み合わせに関係なく起こり得る

セクハラは男女間だけの問題ではなく、同性同士を含めどのような関係性でも、相手が不快に感じる性的な言動であれば、成立するリスクがあります。

たとえば、親しみのつもりで肩に触れたり、狭い職場で不必要に距離を詰めたりする行為もセクハラになる恐れがあります。昔は見過ごされていたようなことでも、今は「嫌なものはイヤ」と明確に声を上げられる時代になっています。

  • セクハラは故意か偶然かは関係がない

上記と関連していますが、狭い場所で偶然肩が触れた、書類を渡す時に偶然手が触れた、これもセクハラになり得ます。触られた方は、それが故意か偶然かはわかりません。そのため、不快と感じて訴えた場合、セクハラと判断される可能性があります。

偶然触れてしまった場合は、「失礼しました」「ごめんなさい」など、偶然であることがわかるように、一言添えるようにしましょう。

  • モラハラは、個人の考え方、価値観が重要

モラハラについては、非常に難しい問題です。他のハラスメントは、会社のルール等で具体的な言動を禁止することはできるのですが、モラハラは、個人の考え方や価値観が関わってくるので禁止することが難しいのです。たとえば、臭いや声の大きさの問題があります。臭いについて敏感な職場の同僚が汗臭いと思って注意しても、本人は「自分は臭わない、そんなことまで指図されたくない」と不愉快になる人もいます。

モラハラに関しては、会社のルールである服務規程から注意を促すのが鉄則です。多くの服務規程には、「職場の秩序を乱さない」「同僚に迷惑をかけない」といったルールが明記されています。まずは、自社の規定を確認してみてください。会社の社員である以上、組織のルールに従うのは義務です。感情論ではなく、規程違反という客観的な事実をもとに対応しましょう。

  • カスハラは現場対応ではなく、管理部門に任せる

カスハラはクレームとは異なり、理不尽な要求を実現するために手段、態様が法律に触れるものです。

顧客からの要求の内容に妥当性が無ければその問答に時間を費やすのではなく、会社のカスハラマニュアルに沿って対応をします。現場だけで抱え込まず、本社の管理部門に対応を引き継ぐのが適切な判断といえます。

まとめ: 公的な指針を「自信」に変え、信頼される現場を築く

部下が不快と感じた上司の言動がすべてハラスメントになるわけではありません。セクハラには性的な言動への配慮が必要ですが、指導においては過度に恐れる必要はないでしょう。このことを理解し、部下に対する指導にはぜひ自信を持ってください。そして部下の問いには真摯に答えることによって、信頼関係を築くことができます。

ハラスメント対策の本質は、全員が安心して働ける現場を守ることにあります。正しい知識をもとに、自信を持って部下と向き合い、強固な信頼関係を築いていきましょう。

■執筆者
菅田 芳恵
資格:グッドライフ設計塾代表 / 特定社会保険労務士
特定社会保険労務士、1級FP技能士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、ハラスメント防止コンサルタント等、13の資格に裏打ちされた幅広い知識を活かして多方面で活躍している。