デジタル技術の導入によって、全国協会の組織運営は飛躍的な進歩を遂げた。
様々な施策を経て訪れたドラスティックな変化について振り返る。
文=文藝春秋メディア・プロデュース室 撮影=三宅史郎(文藝春秋)
広報媒体のウェブ移行が目指したもの
この10年ほど、日本社会のさまざまな場面において、デジタルトランスフォーメーション、いわゆるDXは、驚くべき長足の発展を見せた。
全国協会におけるデジタル化の象徴が、広報媒体のウェブへの移行である。
協会の設立と同年の1966年3月、機関誌「ビルメンテナンス」(創刊号はB5判36ページ、当時は年2回発行)は誕生した。まだネットなどない時代に「情報の有用性」をいち早く認識し、業界の指導、新知識の吸収、ビルメンテナンス業の社会への認知を担うためのツールとして発刊された。
その後、隔月刊、月刊へと発行のペースを上げ、誌名も「月刊ビルメンテナンス」「月刊ビルメン」と変遷し、取り扱う情報も時代の変化にあわせてアップデートされた。そして2021年には、それまで紙に印刷されていた「月刊ビルメン」が「ビルメンWEB」へと衣替えし、常に更新される最新情報に多くの人が無料で手軽にアクセスすることができるメディアへと進化した。
協会の歴史と常にともにあった機関誌が55年の歴史に幕を閉じ、ウェブへと移行するにあたっては非常に大きな決断があった。
その判断を決定的にしたのは、ビルメンテナンスを取り巻く関係者の増加と、それに伴う情報ニーズの多様化と個々人にマッチした情報提供の必要性、そして創刊時に着目された「情報の有用性」が機能しているかを把握するための双方向性の確保であった。
雑誌という媒体では、ボリュームは紙幅に縛られ、更新つまり刊行ペースは月1回であり、さらに部数にも限りがある。以上の理由から、すべての会員に、必要としている情報を届けることは極めて困難であった。
しかし、ウェブであれば、PCは当然のこと、スマートフォンやタブレットといった携帯デバイスでも閲覧が可能であり、誰でも職場や自宅、外出先などにおいて、場所や時間を問わずに利用することができる。情報は瞬時に個々人に届けられ、受け手の側は、自分が必要とする情報だけを取捨選別してアクセスすることが可能になった。
さらに協会としては、どの情報が多くアクセスされているかなど「情報の有用性」を把握することが可能となった。ただし、そのためには読者ターゲットを意識しながら常に有用でフレッシュな情報を提供しなければならない。
それを目指し、最新ニュースを発信する「ビルメンWEB」と月3回配信されるメールマガジンと併せ、ビルメンテナンスに携わるさまざまな立場のユーザーに向けた最新情報が切れ目なく発信できる体制が整えられた。
試験・講習のオンライン化によるキャリアアップの後押し
「ビルメンWEB」のなかでも、個人登録制のサイト「マイページ」は、利便性が高い。
ここでは、各種資格試験・講習会の申込ができる。
試験分野では、ビルクリーニング技能士、ビル設備管理技能士などがあり、申込はもちろん、合格発表も、ウェブ上で確認することができる。オンライン講習を実施する対象としては、清掃作業監督者、病院清掃受託責任者、建築物清掃管理評価資格者、エコチューニング技術者などが挙げられる。
北海道から沖縄まで会員を擁する全国協会では、かつて、9か所に設けられた地区本部ごとに試験・講習を実施していたが、会場は各地区の主要都市にならざるを得なかった。そのため、特に地方の会員から試験・講習のオンライン化が熱望されていた。
しかし、実技や修了試験を伴うケースが多かったこともあり、オンラインへの移行は困難を極めたが、そんな折に直面したのが新型コロナウイルス感染症のパンデミックであった。
「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(令和3年11月19日、新型コロナウイルス感染症対策本部決定)により、国によって「社会の安定の維持の観点から不可欠なサービス」と認められたビルメンテナンス業は、コロナ禍でも現場の最前線においてサービスを提供することが求められ、業務を止めることは許されなかった。
全国協会による従事者への教育・研修に関しても、事情は同様であった。移動や集合が困難なコロナ禍においても、教育・研修を届ける必要に迫られた。試験ではCBT方式(Computer Based Testing)の採用といった工夫により、多くの試験・講習のオンライン化が進められた。
集合形式からオンラインへと切り替わったことで、利用者側の利便性は大きく向上した。移動に係る時間や交通費などのコストが大幅に削減されたほか、現場シフトを調整することなく、自身の都合に合わせて受講時間や受験日を決めることが可能となった。人手不足に苦しむ現場にとって、業務への影響を最小限に抑えながら受講・受験できるようになった意義は大きい。
一方で、決してパソコンスキルが高いとはいえないこの業界にとって、オンライン化への対応には各現場での環境整備が求められる場面もあった。しかし、こうした課題がありながらも、オンラインによる申込者は徐々に増え、その利便性は現場にも着実に受け入れられていった。
デジタルならではの速報性、携帯性、双方向性
「ビルメンWEB」では、ビルメンテナンス事業者向けの補助金・助成金や法律・条令改正に関する情報、最新の資機材や技術についての動向をキャッチしたりすることも可能。協会による業界の実態調査をはじめ、長年にわたって蓄積されたデータのアーカイブもまとめられているから、マクロの視点に立ってビルメンテナンスを俯瞰することもできる。
協会が発行するテキスト、マニュアル、ガイドラインといった電子書籍を無料で閲読できる会員向け「BOOKステーション」も、好評を博している。
客先でもある現場に重い書籍を持ち込まなくても、スマホやタブレットで、すぐテキスト等を参照することができるようになった。また、キーワードで内容を絞り込むことができるので、業務が多岐にわたるビルメンテナンスにはぴったりだ。なお、電子書籍ではなく、従来通りの紙の書籍として入手したいというニーズにも、しっかりと対応している。
また、デジタルメディアならではのムービーコンテンツも充実の度合いを増している。 「ビルメン動画ステーション」では、労働災害防止や安全・健康増進の促進、ビルクリーニング初心者に向けた「はじめてのビルクリーニング」、ビルメンヒューマンフェアの講演会・イベントの中継やアーカイブ、特定技能外国人材に対しその母語でレクチャーする業務の説明など、多用途にフィットする映像が揃うのだ。
特にリクルーティング用にドラマ風の演出を施した仕事の紹介は、視聴者としてのターゲットとなる個人を意識し、スマホ時代に適応した縦長動画として展開。短いドラマ仕立てで、ビルメンの日常を案内している。採用・広報活動の場において、会員が自由に使用することが可能。
会員のみが利用できるeラーニングコンテンツも充実。社会人として必須のビジネススキルを学ぶことできる「マイビズアップ」は、約400の教育コンテンツが無料で利用できる。
さらに、会員どうしで悩み相談や意見交換ができる「会員コミュニティ掲示板」も設置されている。現場での工夫、有用な資機材の相談、試験対策、社内ルールの設定の相談など、一人では解決が困難な課題も同業の仲間が知恵を出し合うことでヒントが得られる。
なお、全国協会が提供するデジタルコンテンツを十全に活用するために役立つ「簡単!パソコン・スマホ操作ガイド」という動画も用意されている。デジタル環境には不慣れなユーザーでも不安を感じない配慮が施されているというわけだ。
「ビルメンWEB」は、キャリアの開発やスキルの向上、情報のアップデートに資するツールとして、見事に定着した。ビルメンテナンス関係者なら、チェックを欠かせないメディアといえよう。
オンライン会議が組織力を強化
全国協会の活動における基盤整備にも、デジタル技術が寄与している。
日本中の各地に加盟社を擁する組織である全国協会では、かつて、さまざまな機会においてリアルな形で会員らが同じ場所に集結する必要があった。だが、その時間的・経済的負担は、オンラインでの講習や会議の導入によって軽減された。今では、オンラインセミナーも積極的に導入している。
YouTubeによる総会の生配信、各種会議におけるZOOMの活用は、移動等による時間的制約による参加のハードルを下げることにつながった。従来通りの集合による対面式の会議と併用することにより、結果として、全国協会の紐帯を以前よりも強くした。
また、ウェブによるアンケートの実施、クラウドによる会議資料の共有化なども、協会運営の円滑化・効率化に大いに功を奏している。
全国協会のDXは、これからもますますの進化を続けることだろう。
